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涙色セレナーデ



 大きくて温かい誰かの手が、わたしの頭を優しく撫でてくれている。撫でられているその感覚に、ぼやけていた意識が少しずつはっきりとしていく。どうやら眠ってしまっていたらしいと理解したのは、まだ重たい瞼を持ち上げて、頭を撫でてくれていたのが千斗さんだと認識してからだった。

「あ、起きた?」
「……千斗、さん?」
「うん、僕だよ。おはよう」

 今日は仕事だからと出掛けて行った彼が帰って来ているということは、わたしは一体どのくらいの時間寝ていたのだろうか。そもそも、いつ眠ってしまったのかさえ記憶にない。

「うっかり寝ちゃったんだろうし、仕方ないとは思うんだけど。こんなところで寝たら風邪引くでしょ」

 すみませんと謝った拍子に、ずるりと肩に掛かっていたブランケットが落ちてきた。いつ寝たのか記憶がないわたしは、たぶん何も掛けていない状態で眠っていたはず。このブランケットは、そんなわたしを見兼ねた千斗さんが掛けてくれたのだろう。ということは、彼が帰宅してからもしばらくは眠ったままだった、ということになる。
 本当に、一体どれだけ眠っていたのだろう。今夜ちゃんと眠れるのか心配になってきた。

「ブランケット、ありがとうございます」
「どういたしまして。次からはちゃんとベッドで寝てね」

 自分の意思で寝たわけではないので、次も同じように眠ってしまったら……と思うと約束はできないのだけど。努力はしますという意味で、とりあえずは頷いておく。

「それじゃあ眠り姫も起きたことだし、おいで」

 そう言った千斗さんはこちらに向かって両手を広げた。掛かっていたブランケットを適当に畳んで置いてから、彼の腕の中へと身を預けた。

「もう少し上手く甘えられるようになるといいんだけどね」
「? 何のことですか?」
「頬に涙の跡があった。目元も腫れていたし、泣き疲れて眠っちゃったか、眠っている時に泣いていたんじゃないの?」
「……あ」

 彼に言われて思い出した。そういえば、眠ってしまう前は泣いていたんだったと。
 別に、千斗さんがいない間に何かあったというわけではない。ただ、気付かないうちに積み重なっていたものが溢れてきてしまったというだけで。

「泣くなとは言わないけれど、泣く時はせめて僕がいる時にして。こうして抱き締めてあげるから」

 ぎゅっとわたしを抱き締める力は優しくて、だけど大丈夫だと安心させてくれるような強さもあって。じわりと涙が滲むのがわかった。それを隠すようにして、千斗さんの背中に腕を回して抱き締め返す。

「……千斗さん」
「ん?」
「もうちょっと、このまま」
「いいよ。なまえが望むなら、いくらでも」

 せっかく彼が、わたしが甘えられるように状況を作ってくれたので、もう少しだけその優しさに甘えていたい。千斗さんの鼓動と温もりを感じながら。



『Words Palette hug!』より
26.ベイビーシュガー(両手を広げて、おいで、優しい力)


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