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スイート・ミルククラウン



 ガチャリと音を立てて開かれたドアから、彼女がひょっこりと顔を覗かせた。その仕草可愛いなぁと思いながら、大好きななまえと久しぶりに会えたのが嬉しくて自然と頬が緩む。それは出迎えてくれた彼女も同じようで、嬉しそうに微笑んでいた。

「お邪魔します!」
「いらっしゃい、陸くん。あ、鍵だけ閉めてもらってもいいかな?」
「はーい! 戸締りはしっかりしなきゃだもんね」

 言われた通りにドアの鍵を施錠して、改めて彼女に向き直る。
 時間を見つけてメッセージのやり取りをしたり、電話をしたりはしていたけれど。会えない日が多くなるとやっぱり寂しくて、恋しくて。文字だけのやり取りじゃ足りない、電波が届けてくれる声だけじゃないと、会いたくて焦がれた夜もあった。だけど今、なまえはここにいる。オレの目の前に、少し手を伸ばせば触れられる距離にいるから。

「っ、陸くん……?」

 靴を脱いで部屋に上がることさえせずに、手を伸ばして彼女を腕の中へ閉じ込めた。ずっと会いたくて、こうしてぎゅーって抱き締めたいと思っていたから、もう我慢なんてできるはずなかった。

「ごめん、ちょっとだけ抱き締めさせて?」

 未完成だったパズルの最後のピースが埋まるように、オレの中で足りなかった何かが満たされていくのを感じた。ドクドクと脈打つ心臓は速くて少し苦しいくらいなのに、じんわりとなまえの温もりが伝わってくるからか安心できて。どこか心地が良くて、深く息を吐いた。

「……少しだけだよ」

 玄関に居たままだと冷えちゃうから。そう言葉を続けた彼女は、きっとオレの体調を心配して言ってくれたのだろう。今は抱き締め合っているから温かいけれど、確かに玄関はリビングとかに比べると寒い。まだ冬じゃないから凍えるほどではないとはいえ、肌寒いのだ。このままいたら彼女が危惧した通り冷えてしまうから、ある程度で一度離れなくちゃいけない。そういえばまだ靴だって脱いでないし。

「なまえと離れたくないなぁ……」
「うーん、それは困ったなぁ。陸くんが来たら、はちみつたっぷりのホットミルクを作ってあげようと思ってたんだけど……」
「えっ!? ほんと!?」
「ほんと。だからぎゅってするのはまたあとでね」

 わかったと頷いて抱き締めていた腕を解けば、なまえの手がこちらに伸びてきて頭を撫でてくれた。ちょっと子ども扱いされているような気がしなくもないけれど、彼女に撫でてもらうのは好きなので黙っておく。

「じゃあわたし、ホットミルク作って来るね」
「あ、ちょっと待って!」

 ホットミルクを作りにキッチンへ向かおうとしていた背中を呼び止めながら、履いたままだった靴を脱ぐ。脱いだそれはきちんと揃えてから部屋に上がる。
 どうして呼び止められたのか、不思議そうにじっとオレを見ている彼女の肩に手を置いて、その距離を詰めた。柔らかな唇に触れるために、近く。

「……今はこれだけ。でも、あとでいっぱいしようね」

 耳元でそう囁けば、なまえの頬はじわじわと赤く染まっていった。そしてホットミルクを作るからと、逃げるようにキッチンへと向かって行った。
 本当はもっと抱き締めていたかったし、キスだってしたかったけれど。彼女を充電するのは、はちみつたっぷりの甘いホットミルクを飲んだあとで。



『Words Palette hug!』より
17.君を愛と呼ぶ(充電、深く息を吐く、じっと)


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