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ショコラ色に染まる恋



 彼女の視線の先には、いつだって他の男がいた。だからまぁ、その心に俺が入り込む隙なんてないことにも、なんとなく気付いていて。でも、ナマエへの気持ちは諦められなかった。否、諦めるつもりなんてなかった。俺がこんなにも本気で誰かを好きになるのは、後にも先にもきっとこの子だけだって、そう感じていたから。

「はぁ…………」

 重たいため息を吐いた彼女は、そのままテーブルの上に突っ伏した。見るからに元気がないし、たぶん何かあったんだろう。何があったのかは、本人に聞いてみないとわからないけれど。

「どうしたの? ため息なんて吐いちゃって」

 俺がそう聞くと、突っ伏していたナマエがむくりと起き上がる。そしてカフェオレが注がれたカップに口をつけると、言いにくそうに話し始めた。

「……私ね、好きな人がいたの」

 うん、知ってたよ。思わず言いかけたそれは、口に含んだホットショコラと共に飲み込んだ。いつもは甘く感じるそれが、今日はどこかほろ苦く感じる。

「ずっと好きだった。少しだけでも会えたり、話せたりするだけで、それだけでも嬉しくて。告白できなくても好きだったんだ」

 何もしてこなかった自分が悪いんだけどね、その人、彼女ができたんだって。一緒にいるところを見かけたんだけど、すごくお似合いで、すごく幸せそうだったなぁ。そう言葉を続けたナマエは、今にも泣いてしまいそうな顔をしていた。

「……なんか、ごめんね。急にこんな話しちゃって」
「聞いたのは俺なんだし、ナマエが謝る必要ないでしょ。むしろ謝るのは俺の方。ごめん、無神経だった」
「ううん、気にしないで。このまま一人で抱えているのも辛かったから、話を聞いてもらえて助かっちゃった。ありがとう」

 話を聞いてもらったから、だからもう大丈夫だと言わんばかりに彼女が笑みを浮かべる。だけどそれはどこかぎこちなくて、無理していることが窺えた。すぐに気持ちを切り替える方が難しいだろうし、俺の前では無理しなくてもいいのに。

「……俺にしない?」
「え?」

 好きな人がいるならその気持ちを尊重してあげたいなんて、らしくもないことを考えて。お試しでいいから付き合うとかそういう提案をすることもなく、ただただ回り道をするかのように、友達という関係を続けてきた。だけど、それももうおしまい。

「実はなんとなく気付いてたんだよね。好きな相手がいるんだろうなって」
「そう、だったんだ……」
「だから今まで黙ってたんだけど。このタイミングで告白したら、ナマエは嫌でも俺のことを考えるでしょ? 気が紛れてちょうどいいかなって思ってさ」

 そいつのことを忘れる為でもいいから俺と付き合ってみないかと付け足せば、彼女は困ったように笑った。フェイスくんの気持ちを利用するみたいな真似なんてできないよ、と。

(好きな子と付き合えるわけだし、俺にとってはメリットしかないんだけどね)

 それでも俺の気持ちを利用するようなことはできないと断るあたり、なんとも彼女らしい。まぁ、そういうところも含めて好きになったんだけど。
 キミが俺を利用しないなら、キミの気持ちを俺に向けてもらうまで。もう遠慮する必要はないし、ナマエには覚悟してもらおう。俺に落ちる覚悟を。



『Words Palette Select me.』より
10.運命の手違い(俺にしない?、困ったように、回り道)


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