特別だって気付いてよ
フェイスくんからデートに誘われたと言えば、おそらくニューミリオン中の女の子から羨ましがられることだろう。羨ましがれるどころか、嫉妬された挙句に刺される可能性だってある。それくらい彼は女の子から人気なのだ。
(他に女の子なんていくらでもいるのに、どうして私をデートに誘ったんだろう)
待ち合わせ場所に到着した私の視界に飛び込んできたのは、女の子達から逆ナンされているフェイスくんだった。もはや彼が侍らせているのでは? と思えるほどに、フェイスくんを囲っている女の子達の距離は近い。言い方はあまり良くないけれど、選り取り見取り状態である。どうして私なんかをデートに誘ったのか疑問でしかない。今まさにあなたを囲んでいる女の子達から、デートの相手を選べばいいのでは。なんて、可愛くないことを思ってしまう。
「……あ。ごめんね〜、連れが来たみたい」
どうやら私が来たことに気付いたらしい彼が、女の子達にひらりと手を振ってこちらへやって来る。その場に残された女の子達からの視線が痛いので、正直帰りたい。でもデートの約束してしまっている以上、そうもいかないわけで。どうにかして突き刺さるほどの視線に耐え、それじゃあ行こうかと歩き出したフェイスくんの背中を追うようにして、私も歩き出す。
「あの子達はよかったの?」
「別にいいんじゃない? 俺が今日、デートの約束してるのはナマエなんだし」
デートの相手を待ってるだけなのにナンパとか、ちょっと勘弁してほしいよね。と言葉を続けた彼に、モテる人もモテる人で苦労があるんだなぁと思った。
「でもフェイスくん、なんで私をデートに誘ったの? 誘いなんていくらでもくるし、相手だっていくらでもいるでしょ?」
私がそう言うと、フェイスくんがぴたりと足を止めた。それに気付いた私も足を止めて、彼の方を振り返る。
「まぁ確かに、女の子からのお誘いは毎日来るけど……俺が自分からデートに誘うのは、キミだけだよ」
「……っ! なるほど、そうやって他の子にも甘い言葉を囁いてるわけね……でも、私は騙されないから」
彼はそういうのに慣れているし、今のもきっと社交辞令みたいなものだろう。だから騙されてはいけないし、期待なんてしたらダメ。頭ではそう理解していても心臓はばくばくとうるさいし、顔も熱い。たぶん顔赤くなってるんだろうなぁ……と思いながら、ほら早く行こう! と再び歩き出した。
「……ホントに、特別なのはナマエだけなんだけどね」
ぽつりと呟かれた彼の本音は、私の耳に届くことなく空気に溶けて消えた。
『Words Palette two live together』より
17.めかし込めば甘い(特別、待ち合わせ、赤い)