キャンディに込めた想い
3月14日、ホワイトデー。バレンタインにチョコレートをもらった相手へ、お返しをプレゼントする日。そんなホワイトデーが刻一刻と近付く中、わたしはとある人へのお返しに頭を悩ませていた。
「うーん、やっぱりピザがいいのかな……」
先月の14日、つまりはバレンタインにディノさんがチョコレートをくれた。そんな彼へのお返しは結構前から考えているのだけど、なかなか決められない。最初はディノさんの好物であるピザにしようと考えてのだけど、彼は普段からよくピザを食べているし、他の物にしてみた方がいいかもしれない。そう思ってしまったがために決められず、最終的にはもうピザにした方がいいのでは……と思い始めていた。
「……あ。確かホワイトデーのお返しのお菓子って、それぞれ意味があったような気が……」
マシュマロには「あなたが嫌い」という意味があって、ホワイトデーのお返しには選ばない方がいいよと、前に友達が言っていた覚えがある。それらの意味を調べてから、もう一度お返しを考えてみてもいいかもしれない。そう思ってカバンに入れていたスマホを取り出して、さっそくホワイトデーのお返しの意味について調べ始めた。
***
ホワイトデー当日。わたしはディノさんへのお返しが入った紙袋を持ちながら、彼が来るのを待っていた。緊張しているせいか心臓がばくばくとうるさい。少しでも緊張を和らげるためにと深呼吸をしていると、わたしの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「あっ、ディノさん!」
「遅くなってごめん! 待たせちゃったよな」
「い、いえ! わたしも今来たところなので……」
きっと走ってきてくれたのだろう、彼の明るいピンク色の髪は少し乱れていた。だけど息ひとつ上がっていないところは、さすが現役のヒーローと言うべきか。
「えぇっと、確か俺に用があるって言ってたけど……」
「あ、はい。今日はホワイトデーなので、ディノさんにお返しを渡したくて」
手に持っていた紙袋を差し出すと、彼は「ありがとう!」と笑顔でそれを受け取ってくれた。その笑顔に、少し落ち着いてきたと思った鼓動がまた暴れ出す。
「開けてもいいかな?」
「も、もちろんです! 喜んでもらえるといいんですけど……」
「ナマエがくれる物なら、俺は何でも嬉しいよ」
そんなずるい言葉を放った彼は、中身は何だろうとキラキラとした目で紙袋からプレゼントを取り出した。
「キャンディ?」
ディノさんが手に持っているビンの中には、カラフルで可愛らしいキャンディが詰まっている。瓶の形もハート型で可愛らしく、お返しの意味も踏まえた上で、わたしはこれを選んだ。
「はい、キャンディです。……ディノさんは、ホワイトデーのお返しには意味があるって、知ってますか?」
「ホワイトデーのお返しに? いや、知らないな。でも、このキャンディにも何か意味があるってことだよね」
わたしはこくりと頷いて、彼のアクアブルーの瞳を真っ直ぐに見つめた。キャンディに込められたお返しの意味を、わたしの気持ちを伝えるために。