サプライズはブーケに託して
ガチャリとリビングのドアが開いて、帰宅したらしいウィルくんが姿を現した。途中で実家に顔を出したのだろう、可愛らしいブーケを持っているのが見える。
「おかえりなさい、ウィルくん」
「ただいま。それから、はい」
どうぞと手渡されたブーケをありがとうと受け取る。きっと彼が花を選んで作ってくれただろうから、今年も花瓶に生けて飾ろう。
ウィルくんからブーケをプレゼントされるのは、何も今回が初めてというわけではない。彼は毎年わたしたちが付き合い始めた記念日に、決まってブーケをくれるのだ。感謝とこれからもよろしくねという気持ちを込めて作ってプレゼントしているのだと、前にウィルくんが教えてくれた。彼の実家が花屋なのは知っていたけれど、まさか記念日にプレゼントしてくれるブーケをウィルくんが作っていたとは思わず、驚いたのも懐かしい。
「今年のもすごく素敵……!」
「ありがとう。毎年、ナマエのことを考えながら作ってるから、喜んでもらえて嬉しいよ」
いつも記念日にもらったブーケを生けている花瓶があるので、今年もそれに生けようかな。そう思っていた時だった。花と花の間から何か違う物、確実に花ではないであろう物を発見したのは。
「ウィルくん、花の間に何かあるんだけど……」
「え? 何だろう……ちょっと取ってもらってもいい?」
わかったと頷いて、花の間にある何かに触れる。そっとブーケから抜き取ってみると、表れたのはジュエリーケースだった。しかもそのサイズは片手に収まってしまうほどで、中身はなんとなく予想できてしまう。
「えっ!? これって……!」
「ふふ、驚いた? たまにはこういうのもいいかなって思って、サプライズにしてみたんだ」
渡しておいてあれだけど、ブーケは一旦俺が預かるから開けてみて。そう言葉を続けた彼にブーケを預けて、ケースの蓋を開ける。ぱか、と音を立てて開いたその中には、やはりリングが収まっていた。
「それ、ペアリングなんだ。だから俺もお揃いのを持ってて……ほら、見て」
すっと差し出されたウィルくんの右手の薬指には、鈍く光っているシルバーリングが嵌っている。お揃いだと言っていた通り、今さっき開けたケースに入っているリングと同じデザインの物が。
「……うれしい。すごく、すっごく嬉しい……! ウィルくん、大好き!」
そう言いながら、空いている方の手で彼の手をぎゅっと握る。本当は抱きつきたかったのだけど、ウィルくんは今ブーケを持っているし、わたしもリングを持っているのでそれは我慢した。彼もわたしと同じことを考えていたのか、抱き締めようとこちらへ手を伸ばしかけていた。
「……あ、そうだった。今は抱き締められないんだったな」
今度はゆっくりとウィルくんの顔が近付いてきて、その唇がわたしのそれに重なった。触れるだけのキスして、続きはこのブーケを生けたらねと一度離れる。
彼に抱き締められながら再び唇を重ねる時には、わたしの指にもリングが嵌っていることだろう。ウィルくんとお揃いのペアリングが。