ナイトメア・プロテクト
地面が揺れているのか、それともわたし自身が揺れているのか。どちらなのか判断はできないけれど、ぐらぐらと足元が揺れている。そんな揺れを感じながらも、わたしは何故か必死に走っていた。まるで追っ手から逃げる人のように。だけど必死に走っていた努力も虚しく、いつの間に足場が崩れていたのか、傾いたわたしの体は呆気なくどこかへ落ちていった。
「っ!」
ぎゅっと瞑っていた目を開くと、まず視界に飛び込んできたのは心配そうにこちらを覗き込んでいるセイジくんの顔。ぱちぱちと何度か瞬きをして、ようやく先程まで見ていたものは夢だったのかと理解した。
「随分うなされていたから起こしちゃったんだけど……大丈夫?」
「だ、大丈夫、だよ」
絞り出したその声は、思っていたよりも震えていた。
どんな夢を見ていたのか、内容はあまり覚えていないのだけど。ただ漠然と恐怖だけは覚えている。全身にじっとりと嫌な汗をかいていたのも、今もやけに鼓動が速いままなのも、きっとそのせいだろう。
「ちょっと夢見が悪くて。でもそれだけだから、本当に大丈夫……」
「無理しなくていいよ。大丈夫、僕が傍にいるから」
ぽすんと隣へ寝転がった彼の腕が伸びてきて抱き寄せられた。その温もりに、強ばっていた体からふっと力が抜けた。
「そのままゆっくり、深呼吸してみて」
言われた通りにゆっくりと息を吸って、吐いて。また息を吸って、吐いてを繰り返す。そうしていくうちに少しずつ気持ちも落ち着いてきた。わたしが深呼吸をしている間、優しく背中を撫でてくれていたセイジくんのおかげだろう。
「……もう、大丈夫。ありがとう、セイジくん」
「どういたしまして。落ち着いたみたいでよかった」
かなり心配させてしまったのか、彼が安心したようにほっと息を吐き出したのがわかった。それを申し訳ないと思いながらも、こうして寄り添ってくれたことが嬉しくて。
「あの、少しわがままを言ってもいい?」
「もちろん。ナマエちゃんのわがままなら喜んで」
セイジくんは優しいから、わたしがわがままを言っても拒むことは滅多にないと知っている。だからその分、あんまりわがままを言わないように気を付けているのだけど。今は、許されたい。
「このまま……セイジくんに抱き締められたまま、寝たいな」
「うん、いいよ。というか、そのくらいなら全然わがままじゃないからね?」
僕だって、こうして君を抱き締めたまま眠りたいって思っているんだから。そう言葉を続けた彼の手が、優しく髪を撫でてくれる。安心して眠っていいよ、と言わんばかりに。
このまま眠りに就いたら、悪夢にうなされることはおそらくないだろう。だって、好きな人の温もりに包まれながら眠れるのだから。
『Words Palette hug!』より
24.安らぎの胸中(背を撫でる、ゆっくり、落ち着いて)