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カードが導く恋心



 今朝占った結果では、僕の今日の運勢は悪くなかったはず。むしろ、いいことが起こると出ていた。だから今日彼女と、好きな人とこうして偶然会えたのだろう。そう思っていたけれど、どうやら僕の占いは外れてしまったのかもしれない。

「実はその、セイジくんに占ってほしいことがあって。お願いしてもいい?」
「もちろんいいよ。何を占おうか」
「恋愛運を見てもらえないかな……?」

 占ってもらいたいことは人によって様々だ。恋愛運を見てほしいとお願いされたこともあるし、何も今回が初めてというわけではない。だけど、好きな子からのそういったお願いは動揺してしまう。だってそれはつまり、ナマエさんには今、好きな人がいるということなのだから。

「……恋愛運だね、わかった。それじゃあ……この中から一枚、好きなカードを選んでくれる?」
「えっと……じゃあ、これで」

 彼女が選んですっと抜き取った一枚を受け取り、どのカードなのかを確認するべく裏返しになっていたそれを表にした。

(結果は……うん、すごくいい)

 喜ばしいことなのに、胸の奥がじくりと痛む。ナマエさんが好きだという恋心が素直には喜べなくて、痛みに悲鳴を上げる。だけどそれは必死に隠して笑顔を浮かべた。とてもいい結果だから大丈夫だと、彼女を安心させるために。

「ナマエさんの恋愛運、すごくいいよ。好きな人に告白をしたら、きっと上手くいくと思う」
「ほ、本当に?」
「本当だよ。だから大丈夫、自信を持って!」

 ありがとうと安堵したように笑った彼女に、胸の奥の痛みが酷くなっていくのがわかった。それでも、ナマエさんが好きな人と想いが通じて幸せになれるのなら、それでよかった。好きな人の幸せが一番だから。
 今すぐに彼女を忘れるのは、この気持ちをなかったことにするのは難しいけれど。少しずつ時間をかけて風化させて、そうしたら恋が成就するであろうナマエさんを祝福できるかな。

「……あ、あの、セイジくん」
「うん? どうしたの?」
「…………っ、すき、です。わたし、セイジくんのことが好きです……!」

 きっと彼女はこれから好きな人に告白をしに行くんだろうな、大丈夫だと思うけれど上手くいくといいな、と考えていた。考えていたんだけど。まさかその相手が僕だったなんて、誰が気付くだろうか。

「え? えっ?」
「きゅ、急にこんなこと言われても困るよね! えっと、返事はいつでも大丈夫なので!」

 占ってくれてありがとうと言葉を続けた彼女は、慌ただしく立ち上がった。その拍子にガタンと椅子が音を立てる。
 はっと我に返り、逃げるように帰ろうとしていたナマエさんの手を掴む。返事ならもう、決まっている。あとはそれを言葉にして伝えるだけ。

「待って! 返事、今させてほしいんだ。僕もナマエさんのことが、好きだから」
「……え?」
「まさかナマエさんの好きな人が僕だなんて思ってなかったから、びっくりしちゃった。両想いだったんだね」

 今朝の占いでいいことが起こると出たのは、このことだったんだ。彼女には好きな人がいるんだと、僕の占いは外れちゃったんだなと落ち込んだけれど、ナマエさんと同じ気持ちだったなんて。すごく、すごく嬉しい。さっきまで感じていた胸の奥の痛みはすっかり消えて、今はただ幸せな気持ちで満ちている。

「えっと、じゃあ改めて。ナマエさんのことが、好きです。僕と付き合ってください」

 未だに掴んでしまっていた手を解いて、今度はそれを彼女に差し出す。するとナマエさんは目を潤ませながら「はい」と頷いて、僕の手に自らの手を重ねてくれた。ぎゅっと握った手は小さくて、温かくて。この小さな温もりを離したくない、守りたいと心から思った。

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