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溺れすぎにはご注意を



 キンキンに冷えているビールは最高にうまいと確約されているようなものだ。だと言うのに、今日ばかりは最高だと感じなかった。この喉越しの良さも、ビール特有の苦味も、少し心地が悪い。

(あー……どうすっかなぁ)

 気を抜くと考えてしまうことを振り払うようにして、再びビールを呷る。あっという間にジョッキを空にしてテーブルに置けば、横に座っているディノがオレの方を覗き込んで来た。

「なぁキース、今日はなんかペースが早くないか?」
「そうかぁ? ビールがうまくて、ついつい飲んじまうんだよな〜」
「ディノの言う通り、今日は飲むペースが早い気がするな。その調子だとすぐに潰れてしまうだろう」

 もう少しペースを落としたらどうだ。そう言葉を続けたブラッドも、顔にこそ出ていないものの一応心配をしてくれているらしい。ディノはわかりやすいから、そんなに飲むなんて何かあったのか? と顔に書いてあるが。
 何もないと言えばまぁ、嘘にはなる。自分でも普段より飲むペースが早い自覚はあったし、そうなっている原因は確実にアレだろう。

「別にいいだろ? 今日はとことん飲みたい気分なんだよ、放っとけ」
「飲むのは自由だが、酔い潰れたお前の介抱は誰がすると思っているんだ」
「そうだそうだー!」
「あー、へいへい。いつも感謝してますよ〜っと」

 別にオレだっていつもべろっべろに酔い潰れるまで飲んでいるわけじゃねぇし、たまには限界まで飲む日があったっていいだろう。特に最近は、飲む量も少し減ってきてたくらいだし。今日ぐらいぱーっと飲んだって文句は言われないはずだ。そう、彼女と喧嘩しちまった今日くらいは。

「無理に聞くつもりはないけど、何かあったなら話してくれよ? 俺もブラッドも話聞くからさ。なぁ、ブラッド」
「まぁ、聞くだけならな」
「……別に、大したことじゃねぇよ」
「ほう? 大したことではないなら、俺達に話せるだろう」

 本当に大したことではないからそう言ったのに、間違いだったなとすぐに後悔した。いつもよりも早いペースで飲んでいるからか、もう酔いが回って口が滑ったらしい。なんて、そんなヘマをするのもコイツらが相手だから、というのもあるかもしれないが。

「…………喧嘩、したんだよ。ナマエと」
「えっ、喧嘩!? 彼女さんと!? キース、お前また何かしたんじゃ……」
「お前、今度は何をしたんだ」
「おいお前ら、話を聞く前から俺が悪いって決めつけんなよ」

 ナマエ、彼女との喧嘩の原因は明確にこれだというものがない。ただいつも通り過ごしていた日常の延長線上で喧嘩になったというだけ。そりゃお互いに違う人間なわけだし、いくら好きで付き合っている関係だろうと、相手に思うところがないカップルの方が少ないだろう。まぁオレは、ナマエに対して思うところなんて特にねぇけど。

「喧嘩っつっても、夜中に泥酔して帰って来てそのままそのへんで寝落ちるのはやめろ〜だの、どうせ遅刻しないってわかってるけど寝坊するのはやめろ〜だの、文句言われただけだけどな」
「やっぱりお前が悪いんじゃないか!」
「いやまぁ、オレが悪いんだけどさ……」
「自覚があるなら、こんなところで油を売っている場合ではないだろう。帰って謝罪するべきだと思うが?」

 ごもっともすぎるブラッドの指摘に、ぐうの音も出ない。だけど今帰るのはちょっとばかし気まずいし、謝るにしても少し時間を置いた方がいい気がしていた。だからって飲みすぎて帰るとまた同じのことの繰り返しになるから、そこは気を付けなければ。

「たぶんまだ機嫌悪いだろうから、ほとぼり冷めた頃にでも帰って謝るよ」

 何か詫びの品でも用意して帰った方がいいか。そんなことを考えながら、今日はこれで最後にしようとビールがなみなみ注がれたジョッキに口をつけた。

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