エリオスR | ナノ
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愛以上、恋未満。



 生憎そこまで鈍感ではないので、彼女から向けられている好意には気がついていた。そして気づいていながらも、現在進行形で気づかないフリをしている。そんなオレを知ってか知らずか、彼女の気持ちは変わらないままだった。

「そういやお前、何か欲しい物とかあんのか?」
「え? どうしたの、急に」
「どうしたって……ほら、誕生日近いだろ」
「……あ。そういえばそうだったね」

 忘れてたよと笑うナマエは、おそらく今オレが話題にするまで本当に忘れていたのだろう。ガキじゃあるまいし、いちいち誕生日で喜ぶ歳でもない。そうなると忘れていても仕方ないか。

「んー、ほしいものかぁ……」
「先に言っておくが、あんま高い物は言うなよ」
「はいはい、わかってまーす」

 とはいえヒーローの給料はそこそこいいから、余程高い物を強請られない限りは買えるだろう。こいつも、そんな無茶を言うやつではない。

「欲しい物って、いざ聞かれると難しいね。これ欲しいな〜って思った物は、もう既に自分で買ってるし」
「まあ、この歳になるとそうなるわな」

 うんうん唸りながら考える彼女を横目に、カクテルを呷る。さて次は何を飲もうかと思考を酒に飛ばしたところで、何か思いついたのかナマエが口を開いた。

「ねぇ、キース」
「ん〜? 何か思いついたか?」
「物ではないんだけどね。だから、無理だったら断って」

 そう言いながら彼女はグラスを手に取り、喉を潤す為かそれに口をつけた。こく、こくと数口嚥下したあと、再び口を開く。

「今度のオフ、私とデートしてくれない?」
「……は? デート?」
「そう、デート。キースの時間を私にちょうだい」

 予想していた物とは違い、思わず間抜けな声が出た。ナマエの言っていた通り、確かに強請られたのは物ではない。が、まさかデートしてくれなんて言われるとは。いっそ付き合ってくれとか言われるのかと身構えていただけに、余計にこいつの願いが可愛く思えてくる。だが、ここで了承してしまえば可能性があるかもしれないと期待させてしまうだろう。それじゃあ、オレがこれまで気づいていないフリをしてきた意味がない。でも。

(好きな女にデートしてくれないかって誘われて、時間をちょうだいって強請られて。断る方が無理だよなぁ……)

 オレなんかよりもっといいやつがいる。そう思っているのは今も変わらねえし、断るべきだと理解もしているのに。心がそれを拒む。

「……いいぜ。しようか、デート」
「えっ、ほんと? ほんとに!?」
「ああ。お前の行きたいとこに付き合ってやるから、どこに行きたいか考えておけよ」

 ぱぁっとまるで花が咲いたように笑う彼女は、それはそれは嬉しそうで。そんな顔を見てしまったらもう、無理だ。
 強引にでも迫られていたら、その気持ちを拒むこともできた。だけどそんなことをするやつではないし、する度胸もないだろう。何よりそんな行動はナマエらしくもない。

「……いい加減、認めろってことなのかねぇ」

 気付いていないフリをしていたのは、何も彼女からの好意に対してだけではなかった。それが相手のためだと思い込んで、己の気持ちにも見て見ぬ振りをしてきた。だというのに諦めることなく粘り続けたナマエには、せめてこっちから気持ちを伝えるべきだろうか。たった今認めたばかりの、だけどずっとここにあった愛を。



『Words Palette Select me.』より
28.dimmi cos'è l'amore(気づかないフリ、強引に、ほしいもの)


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