男女間の友情は成立するのか否か。その答えは人によって違うだろうが、俺の答えはノーだ。まあ成立する場合もあるとは思うけれど、俺と彼女はそれに当てはまらない。少なくとも俺にとっては、だけど。
「今日は付き合ってくれてありがとう、槙くん」
「俺も気になってた映画だったし、あんたに誘ってもらえてよかったよ。こっちこそありがとな」
それならよかったと微笑んだ彼女は、先程注文していたホットティーが注がれたカップを手に取って、口をつけた。
「一人で行ってもよかったんだけど、この作品は観た後に感想を言い合いたくなるだろうなって思ってたから、誰かと一緒に観たくって。だから槙くんが付き合ってくれて嬉しい」
一緒にいて居心地が良いし、気楽に話せる相手だから尚更。そう続けられた言葉には、きっと友達以上の感情はない。それもそうか、みょうじは俺のことをただの男友達だと思っているのだから。そんなの、この気持ちを自覚したその時からわかっていたことなのに。
もしかしたら、他の男にも期待を抱かせるようなことを言っているのだろうか。その可能性を考えただけで何とも言えない感情が胸に渦巻いて、思わず眉を寄せる。
「……みょうじさ、他の男友達にもそういうこと言ってんの?」
「え? そういうことって?」
「一緒にいて居心地が良いとか、そういうの」
カップをソーサーに置いた彼女は、ふるりと首を振った。誰にでもそういうことを言うわけじゃないよ、と。
「……槙くんだから、じゃないかなぁ。それに私、そんなに男友達いないから言う機会もないし……」
彼女の言葉に、渦巻いていた感情はすっとまるで溶けていくように消えていった。その代わり、淡い期待が胸に秘めていた恋心をくすぐって刺激する。
この関係が壊れてしまうのはと思い、今までは隠してきたけれど。もう、いっそのこと壊してしまおうか。やっぱり俺は、みょうじが好きだから。友達なんかじゃなくて、恋人になりたい。理由なんてなくても会える、あんたの特別になりたいんだ。
「…………あの、さ」
「うん」
「俺はもう、みょうじと友達でいたくない。友達じゃなくてもっと、あんたの近くにいられる関係になりたいんだけど……好き、だから」
真っ直ぐに目を見て気持ちを伝えると、驚いたのか彼女の瞳が大きく見開かれた。髪の隙間から見える耳も頬も、じわじわと赤く染まっていく。
「返事、聞かせて」
あんたのこと、絶対幸せにしてみせるから。だからどうか、この手を取ってほしい。
彼女が俺のことをどう思っていたかなんて知らないまま、その口から聞かされる返事を待つのだった。
『Words Palette Select me.』より
20.運命をひとひねり(友達でいたくない、眉を寄せる、居心地)