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月明かりの下で。



 普段はあまり空を見上げることなんてないし、月の満ち欠けもそこまで気にしたことはなかった。それなのに今夜はどうしてか、ふと夜空を見上げた。本当にただなんとなく、明確な理由もないまま。まるで、月に誘われるかのように。

(……あ。今夜って満月だったんだ)

 紺色の空に浮かぶまんまるの月。柔らかいその光をぼんやりと眺めていると、お風呂から上がったらしい彼女が「何してるの?」と声をかけてきた。

「月を見てたんだ」
「へぇ……じゃあ、わたしも一緒にお月見しようかな」

 俺の隣に並んだなまえちゃんは、今日は満月なんだねと月を見上げる。どうやら彼女もまた、今夜が満月だと知らなかったらしい。

「月を見てて思ったんだけど……羽鳥くんが「月が綺麗ですね」なんて言ったら、誤解する人が大量発生しそうだよね」
「突然だね。しかも大量発生って」
「そういう意味なのかなって誤解しちゃう女の人、絶対多いと思うよ。だって羽鳥くんだし」

 ロマンチックで素敵だとは思うけれど、ただ月が綺麗だと事実を言っただけで誤解されても困る。それにもし、俺が愛を込めて月が綺麗ですねと伝えるとしたら、それはなまえちゃんだけ。

「なまえちゃんは?」
「え?」
「月が綺麗ですねって言ったら、そういう意味だって思ってくれる?」

 さっきまで月を見ていた彼女の瞳に、俺が映っている。ぐっと距離を縮めれば、なまえちゃんの頬がほんのりと赤みを帯びていく。

「は、はっきり言ってくれないとわかんないよ……」
「そっか。じゃあなまえちゃんには、ちゃんと言って伝えないとね」

 自分で聞いておいてなんだけど、今更彼女に、遠回しに好きだよとは伝えないだろう。可愛い恋人にはもっとちゃんと、こんなにも君が好きなんだと伝えたい。そう思っているにも関わらず聞いてしまったのは、どんな反応をするのか知りたかったから。

「好きだよ、なまえちゃん。こうして言葉にして伝えても足りないくらい、君が好き」
「〜っ! べ、別に今じゃなくても……!」
「はっきり言ってくれないとわからないって言ったのは、なまえちゃんなのに?」
「今すぐとは言ってなかったよね!?」

 彼女の頬も耳も、みるみる赤く染まっていく。照れているなまえちゃんが可愛くて、愛おしくて、自然と笑みを浮かべてしまう。

「ねぇ、なまえちゃんは? 俺のこと、好き?」
「……知ってるくせに」
「俺も、はっきり言ってくれないとわからないなぁ」

 言葉にしてもらわなくても、なまえちゃんが俺を好きでいてくれていることはわかる。わかっているつもりだ。でも、言葉にしてほしい。彼女の声で紡いでほしいと思ったのだから仕方ない。
 恥ずかしながらも好きだと伝えてくれた彼女と、愛の言葉を嬉しそうに受け取る俺を見守るかのように、夜空には満月が輝き続けていた。

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