Other | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

僕だけのシンデレラ



 わたしに向けられる甘さを含んだ微笑みも言葉も、まるでお姫様みたいに大切にされることも、全部が慣れなくてくすぐったい。やめてほしいと口にしたこともあったけれど、わたしが本気で嫌がっているわけじゃないと気付いていたのだろう。羽鳥くんがそれらをやめてくれる気配は、今のところなかった。

「お手をどうぞ、お姫様」
「……ありがとう」

 差し出された手に自分のそれを重ねると、羽鳥くんの大きな手がぎゅっとわたしの手を包む。するりとさりげなく指が絡められて、あっという間に恋人繋ぎへと変化した。ただ普通に手を繋ぐだけでもよかったのに、こうしてさらっと恋人繋ぎが出来てしまうあたりが彼らしい。

「羽鳥くんは、なんでわたしをお姫様みたいに扱うの?」

 そういえば聞いたことなかったなと思い、いい機会だから疑問をぶつけてみた。わたしはお姫様なんて柄でもないし、ちょっとやそっと雑に扱われたところで壊れてしまうほどやわでもない。そんなわたしをお姫様のように大切に扱うのは、それこそ羽鳥くんくらいで。

「なまえちゃんは、自分はお姫様なんて柄じゃないって思っているかもしれないけれど。俺にとってなまえちゃんは、俺だけのお姫様なんだよ」

 だから特別扱いだってしたくなるし、大切にしたい。そう言葉を続けた彼は、甘い微笑みをこちらに向ける。

「照れてる顔も可愛いなぁ」
「……別に照れてない」

 きっと赤くなっているだろう頬を隠すようにして俯いた。彼の言葉も微笑みも、わたしに向けられる全てが甘くて、過剰摂取でどうにかなってしまいそうで。可愛げのないことを言ってしまったのは、そのせいかもしれない。

「わたしはお姫様みたいだし、十二時になる前に帰らないとね」

 十二時の鐘が鳴ったら帰らなくちゃいけないのはシンデレラで、全てのお姫様が帰らなければいけないわけではないけれど。でもお姫様ってあんまり夜遅くまで出歩いてるイメージないし、あながち間違ってはいないはずだ。

「そっか。なまえちゃん、帰っちゃうんだ」

 寂しそうな声色に、ちらりと羽鳥くんの顔を盗み見る。その表情もどこか寂しげだった。いつも飄々としているのに、わかりやすく感情が顔に出るなんて珍しい。何か裏がありそうだと考えてしまうのは、相手が相手なので仕方がない気がした。

「今日は泊まれるって言ってたから、一緒に食べようと思ってなまえちゃんが好きな店のケーキを買っておいたんだけど……帰っちゃうなら仕方ないね」
「嘘です泊まれます」

 わたしが即答すれば、それならよかったと彼がくすくすと笑う。
 羽鳥くんが上手なのか、それともわたしがわかりやすすぎるのか。どちらにせよ、やっぱりわたしはお姫様なんて柄ではない。無理だ。与えられる優しさや愛情に対して、素直になれないのだから。それでも彼は変わらず、わたしのことをお姫様と呼ぶのだろう。この世でたったひとり、わたしにだけ。

[ back to top ]