ガラリと窓を開けてベランダに出ると、ひゅうっと冷たい風が吹き込んだ。もうすっかり冬だなと思いながら窓を閉め、ポケットに入っていた煙草とライターを取り出して、口に銜えたそれに火をつける。
「…………ふぅ」
息を吐き出すと、白い煙がふわりふわりと空へ昇っていく。その様子をぼんやりと見つめながら、再び煙草を口に咥える。すっかり癖になった独特の苦味と風味が、口いっぱい、肺いっぱいに広がった。
「耀さん」
窓が開いて、暖かい空気がこちらへ漏れ出してくる。うう、寒いなんて言いながら窓を閉めた彼女は、ブランケットを羽織りながら俺の隣に並んだ。寒いのなら、わざわざ来なくてもいいのに。
「寒くないんですか?」
「んー、寒くないと思う?」
「……寒いと思います」
煙草の火を消しながら冬だからねぇと言うと、じゃあどうしてこんなところに居るんですかと返ってきた。さぁ、何でなんだろうね。なんとなく足が向いただけだから、理由なんて俺にもわからない。そもそも、理由なんてないのかもしれなかった。
「そのままだと風邪引いちゃいますよ」
そう言ったなまえは、自分の肩に掛けていたブランケットを半分、俺の肩に掛けた。身長差があるせいですぐにずり落ちてしまうそれに構わず、華奢な体を掻き抱いた。
「耀さん……?」
突然のことに驚きながらも、なまえは不思議そうに俺の名前を呼ぶだけ。他には何も言わない。ただそっと、俺の背中に腕が回されて、ぎゅっと抱き締め返されるだけ。それが心地よかった。
「本当、物好きだよねぇ」
「それは耀さんも、でしょ?」
「……さぁね」
俺の返答を聞いたなまえは、くすくすと笑う。外はこんなに寒いのに、彼女が腕の中にいるせいだろうか、何故だかあたたかい。こころも、からだも。
「耀さん、お誕生日おめでとうございます」
「どーも。まぁ、もう祝われる歳でもないけどねぇ」
「わたしはお祝いしますよ? たとえ耀さんが何歳になったとしても」
大切な人が生まれてきてくれた日だから、何歳になっても、いつまでも、お祝いしたい。なんともなまえらしい言葉に、ふっと自然と口角が上がる。さっきはお前に物好きだなんて言ったが、俺も物好きなのかもしれないね。だってそうだろう。こんな男の誕生日をいつまでも祝っていたいなんて、相当変わっている。
「そんじゃ、来年も祝ってもらうとしようかねぇ」
「もちろんです。ホールケーキでお祝いしてあげます!」
ホールケーキでお祝いだなんて、俺の歳を考えてから言って欲しいものだ。まぁ、どうせほとんどなまえが食べるからいいんだけど。なんて、俺も甘くなったものだねぇ。それもこれも、俺の腕の中で笑うなまえのせいだろう。