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良い子にはご褒美を



 きらきら輝くイルミネーションと、赤と緑の飾りで彩られる街。クリスマスが近くなるとより一層煌びやかになるから苦手だ。
 デスクのパソコンから顔を上げて、凝り固まった肩を軽く回す。少し休憩しようかとマグカップに手を伸ばし、すっかりぬるくなったコーヒーを飲み干した。おかわりでも淹れようと席を立ったのが、たぶん運の尽きだったと思う。何故ならば、私が席を立った隙に仕事が増やされていたからだ。私に仕事を丸投げした上司は、娘が待っているから今日は何が何でも早く帰るとか言っていたっけ。だからって、部下に仕事丸投げするのはどうかと思うけれど。
 ため息をひとつ吐いてからマグカップをデスクに置き、椅子に腰を下ろした。この仕事の山が片付くまでは帰れないから、さっさと終わらせなくては。不幸中の幸いだったのは、今日がクリスマスだと言うのに私には何の予定もなかったことだろうか。そう思うと、家に帰って一人寂しくクリスマスの夜を過ごすよりは、仕事に没頭出来る方が多少ましかもしれない。そんなことを思いながら、デスクの引き出しを開けた時だった。スマホが新着メッセージの通知を告げたのは。

「誰から……って、夏樹……?」

 デスクに置いていたスマホを手に取ってスライドさせると、夏樹から送られてきたメッセージが表示された。内容は「今日って仕事何時まで?」という至ってシンプルなもの。
 私はデスクに積んである書類の山と時計を交互に見て、「たぶん今日中には終わると思いたい」と返事をする。するとすぐに既読が付いて、「終わったら連絡して」と返ってきた。了解、というクマの可愛いスタンプを送ってスマホを閉じて、仕事に集中するべくコーヒーを一口嚥下した。

***

 どうにか仕事を片付け終えた私は、伸びをしながらデスクに置いてある時計を見る。表示されている時刻は二十三時半で、どうやらギリギリ今日中には仕事を終えられたらしい。帰り支度をするかと椅子から立ったところで、彼に連絡をしなくてはと思い出した。スマホを手に取ってメッセージアプリを開いて、夏樹に「今終わったよ」とだけ送る。

「えーっと、パソコンはデータ保存して落としてあるでしょ。書類はファイリングして……」

 一刻も早く帰りたいと思いながら片付けをしていると、スマホが着信を告げた。わざわざ確認しなくても、その相手が夏樹だということはすぐにわかった。さっきメッセージ送ったし。

「はい、もしもし?」
「あっ、なまえ? 仕事お疲れ!」
「ありがと。そっちも仕事終わり? お疲れさま」
「おう、こっちも終わったとこ。サンキュー」

 通話ボタンをスライドして電話に出ると、案の定夏樹の声が。仕事終わりの疲れた心に好きな人の声は沁みるなぁ、なんて思っていると、画面越しに「このあと飯でも食いに行かない?」と聞こえた。

「うん、いいよ」
「よっしゃ! せっかくのクリスマスだし、やっぱ恋人と過ごしたいもんな!」
「あー、じゃあケーキでも食べる? クリスマスだし」
「いいなそれ! と言っても、ケーキ屋はもう閉まってる時間だけど」
「コンビニで買えばいいでしょ。……売り切れてるかもだけど」

 そんな他愛もない会話を数分して、それじゃあ迎えに行くから待ってて、と言った夏樹が電話を切った。私は夏樹が来るまでに帰り支度をしなければと、もうオフィスには誰もいないのをいいことにドタバタと片付けをする。
 数時間前までは、仕事を押し付けられて最悪なクリスマスだなんて思っていたのに、今は嬉しくて仕方がない。今日は会えないだろうと諦めていた彼に会えるだけで、私の心はいとも簡単に浮上する。もしかして今日夏樹に会えるのは、こんな時間まで仕事を頑張った私に、サンタさんからのご褒美だったり……なんてね。

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