ピピッという電子音が聞こえて、体温計を見る。それに表示された数字を見て、はぁ、とため息をついた。
ここ最近喉が痛かったり、咳が出たり、ぼんやりしてしまうことが多かったし、おそらく風邪だろうなという前兆はあった。
「38度……完璧、風邪引いた……」
そして今日、よりにもよって清志さんとのデートの日に、とうとう熱が出てしまった。とりあえず今日デートに行けない旨を伝えなければと、スマホを手に取り、熱でぼーっとする頭を回転させ文字を打ち込んで、メッセージを送る。送り終えたのを確認してから枕元にスマホを置いて、再びベッドに横になる。
冷蔵庫の中に何か食材は入っていたか、飲み物取ってこなくちゃ、とあれこれ考えている内に私は眠りに落ちた。
***
ふわふわと意識が朦朧としている中、静かな部屋にピンポーンとインターホンの音が響く。誰か来たみたいだから早く出なきゃと思いながらも、熱のせいか怠い体はなかなか思う通りに動いてはくれない。そんな私を急かすかのように、またインターホンが鳴った。
「い、今行きます……」
扉は開いていないから外に聞こえるわけがないのにそう返事をして、のろのろとベッドを抜け出した。壁に体を預けてずるずると玄関まで移動し、ガチャリと扉を開けた。
「はい……」
「おい、病人が歩き回るな」
「えっ、清志さん……!?」
私を見るなり顔を顰めた清志さんは、扉を閉めて鍵もちゃんとかけてくれたなぁと思ったら、ひょいっと私を抱き上げた。
「ひゃっ!? あ、あの、清志さん……!?」
「いいから黙れ。熱があるんだろう、大人しく寝ていろ」
あなたのせいでここまで来るはめになったんですけど、とは言えなかった。体調を崩している時に好きな人の顔を見ると、嬉しいし安心できるから。
私をベッドに寝かせると、清志さんは買ってきた物を冷蔵庫に入れてくるからと部屋を後にした。
「……心配して、くれたのかな」
いつもお金を請求するけれど、清志さんが誰より優しいことを私は知っている。だってさっき彼が持っていたスーパーの袋には、色々と買い込んできてくれたのが伺えるくらいたくさん入っていたから。私からの連絡に気付いて、わざわざ買ってから来てくれたんだもの、すごく優しい人。まぁ、素直じゃないところもあるけれど。そこ含めて、好きだから。
早く風邪を治して、今度こそ大好きな彼とデートしたい。そう思いながら私は再び意識を手放した。