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闇に包まれた逢引き



 終わらない資料作りや情報整理に追われ、これは徹夜だと察したわたしは、近くにいた先輩に声をかけて夜食の買い出しへと出かけることにした。
 お茶とからあげ弁当に、と頼まれたものを書いたメモを見ながらボタンを押して、エレベーターがやってくるのを待つ。扉が開く音が聞こえ、思いの外早くやってきたそれに乗り込むと、鮮やかな赤髪が目に飛び込んできた。

「おや、みょうじちゃん」
「は、服部さん! お疲れさまです!」

 ぺこりと頭を下げると服部さん独特の、のんびりとした声でお疲れさんが降ってきた。
 服部さんとは配属先が違うけれど捜査や資料のお届けで、何回か会話をしたことがある程度の面識はあるものの、何を話したらいいのかわからなくて鞄をぎゅっと抱きしめた瞬間、突然ガタンとエレベーターが止まった。

「えっ!?」
「……停電、か」

 突然のことで驚いて慌てることしかできないわたしと違って、服部さんは至って冷静で。素早く非常ボタンを押して管理会社と連絡を取っていた。
 わたしは何も出来ず、ただ立ち尽くすことしか出来なくて、無意識のうちにすみませんと口に出していた。

「対応出来るに越したことはないからねぇ。例えば今ここに居たのがみょうじちゃん一人だけだったとしたら、尚更冷静に動かないといけない」
「はい」
「ま、こんな暗い中でお小言を言っても仕方ないからここまで。そんで、暗闇が怖いみょうじちゃん」
「えっ!? な、なん……っ」

 暗いエレベーターの中に閉じ込められて、怖くないと言えば嘘になる。けれどどうしてこの人は、服部さんはわかったのだろう。
 今は暗くてよく見えないけれど、彼のアイスブルーの瞳には一体何が映っているのだろうか。

「ほれ」
「わぁっ!」

 ぼんやりとそんなことを考えていたら、ぐいっと方を抱き寄せられて、そのままふわりと抱きしめられた。ぽんぽんと頭を撫でる手が温かくて、わたしを包み込んでくれている服部さんの体温を感じて、かぁっと体が熱を帯びていく。
 でもそのおかげか、今の状況を怖いと感じなくなっていた。

「あ、あのっ、服部さ……」
「いい反応。……俺のことだけ考えてろ」

 ここから出られたら買いに行かなくちゃいかない夜食のことも、まだ片付いていない仕事の山も、エレベーターに閉じ込めれた怖さも、服部さんの声がわたしをあまく痺れさせるせいで吹っ飛んでしまう。
 わたしを安心させるためなのか、それとも服部さんがそうしたいだけなのか、助けが来てエレベーターの扉が開くまで、ずっとその腕に抱きしめられたままなのだった。

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