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しあわせごはん



 コトン、コトンと音を立ててテーブルに置かれていくお皿たち。美味しそうな匂いに刺激されて、お腹がぐう、と情けなく鳴いた。

「……いただきます」
「どうぞ、召し上がれ」

 合わせていた両手を解いて、箸を手に取る。ふわふわと湯気がのぼる茶碗に手を伸ばして、口をつけた。味噌と出汁の優しい味が口いっぱいに広がって、温かさが体に染み渡る。

「おいしい……」
「それならよかった。よく噛んで食べろよ」
「ん、わかってる。というかいつも思ってたんだけど、臣は私のこと何だと思ってるの。子供じゃないんだからね」
「それはわかってるが……子供じゃないなら、俺が来ると毎回倒れてるのはやめてくれ」
「一応、これでも気をつけてるんだけど……」

 肩を竦めながら、臣が作ってくれた生姜焼きに箸を伸ばす。言わずもがな、おいしい。
 彼がこうして家に来てご飯を作ってくれるのは、私が恋人だからというだけではない。私が食事を疎かにして、その結果体が限界を迎えてよく倒れているからだ。そうならないように一応気をつけてはいるものの、気が付けば意識を失っていて、臣の作るご飯の匂いで目を覚ますといういつものパターンになってしまう。

「俺が来ない日も、ちゃんと飯は食べてるのか?」
「たぶん?」
「食べてないな。冷蔵庫の中もほとんどペットボトルの水だったし」
「さ、さすがに調味料とかはあるよ?」
「ああ、それは俺が買ってきてるからな。調味料がないと飯が作れないだろ?」

 そう言ってにこりと笑った臣は何だか怖い。さすがに味噌とか醤油は冷蔵庫にあるだろうと思っていたけれど、それは私が買ったものではなく、臣が買ってきてくれていたものらしい。

「いくら仕事とはいえ、適当にしすぎてた……」
「やっとわかってくれたか」
「やっとわかりました。臣に迷惑かけてる自覚はあるし、どうにかしないとね」

 彼にだって仕事はあるし、劇団に所属しているから忙しい日々を送っているだろう。それなのに、私が迷惑をかけちゃいけない。今まで散々迷惑をかけたんだから、これ以上はダメだ。

「なまえを迷惑だと思ったことは一度もないよ」

 それに、俺が来なくなってもせめてコンビニとかで飯を買って食べてくれればいいんだが、なまえはそんなことしないだろ。そう言葉を続けた彼は、私のことをよくわかっていらっしゃる。そもそも私がコンビニとかでご飯を買って食べていれば、臣が来る度に倒れている、なんてことにはなっていないのだから。

「でも、臣だって忙しいのに……」
「俺が好きでしてることだから、そんなに気にしなくていい。なまえは美味そうに食べてくれるから、作り甲斐があるしな」

 美味そうに食べてもらえるのは、作り手としてはこれ以上ないくらいに幸せだよ。そう言って臣が優しく笑う。頼りすぎるのはよくない、甘えすぎるのはよくないって思ってたのに。どうして臣はいつもそう、甘やかしすぎだってくらい甘やかしてくるの。

「……臣」
「ん? どうした?」
「その……これからも一緒に、ご飯食べたい」

 毎日なんてワガママは言わない、数日に1回くらいの頻度でいい。だから。

「ああ。俺でよければ喜んで」

 いつも色々買ってきてもらって、作ってもらってばかりだから、今度は私が何か作るのもいいかもしれない。おそらく絶対、臣みたいに上手くは作れないけれど。それでも日頃の感謝と愛を込めて作ったら、喜んでくれるかな。喜んでくれるといいな。

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