Other | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

恋色サマーデイズ



 壁掛けのカレンダーはいつの間にか8月になっていて、気温は連日三十度を超えていた。どこからどう見ても夏である。

「イェーイ! 夏だよ、なまえちゃん!」
「……テンション高いね、カズくん」
「そりゃ、夏だからねん☆」

 わたしは連日の猛暑でぐったりだというのに、彼は全然そんな素振りがなくて。むしろ元気が有り余っている感じさえする。さすが、劇団では夏組に所属している夏生まれ、とでも言うべきか。

「海に、プールに、花火大会もいいな〜! なまえちゃんはどこ行きたい?」
「わたしは……とりあえずアイス食べたいかな」
「オッケー! 確か冷蔵庫にあったはずだから、オレ取ってくるよ。何味がいい?」
「じゃあ、ソーダで」

 りょ〜。そう言った彼はソファから立ち上がると、冷蔵庫があるキッチンへと向かった。何だか使ってしまって申し訳ないなと思いながら、お待たせとアイスを差し出してくれた彼を見つめる。ありがとうと受け取ると、どういたしましてと笑うカズくん。彼はどうしてそんなに楽しいのだろう。この季節が。

「ねぇ、カズくん」
「ん? どうしたの?」

 わたしと同じソーダ味を選んだのか、水色の氷菓を片手にカズくんがこちらを見る。

「カズくんは、どうしてそんなに楽しそうなのかなって思って。ほら、夏って暑いし、人によっては室内と外の気温差で体調を崩しちゃうでしょ? 楽しいことももちろんあるけど、なんでなのかなって気になって」
「うーん、そうだなぁ……」

 シャリ、と音を立ててアイスを齧る彼につられて、わたしもアイスに齧りつく。冷たくて、甘い。熱い体内をアイスの冷気で冷ますのが心地いい。

「オレ、夏ってだけで楽しくてテンション上がっちゃうんだけどね。楽しそうに見えるのはたぶん、なまえちゃんと一緒の夏だからだよ」

 好きな子と一緒に過ごせる夏って、やっぱり特別じゃん? と言葉を続けた彼の頬は、ほんのりと赤みが差していて。聞いたのはわたしなのに、何だかこっちまで照れてしまう。

「だから、なまえちゃんと夏を満喫したいなーって思うんだよね」

 こうして一緒にアイスを食べてるだけでも楽しいし、無理にとは言わないよ。そう言葉を続けたのは、カズくんなりの優しさだ。でも、だけど、そんなことを言われてしまったら。

「……花火大会」
「え?」
「花火大会なら、いいよ。かき氷とか食べたいし」
「えっ、いいの? ホントに?」

 こくりと頷けば、カズくんは嬉しそうに笑う。さっそく調べなきゃねん、とスマホへ手を伸ばしながら。
 夏は暑いし、バテちゃって食欲はなくなるし、体調を崩してしまうからあんまり好きじゃない。好きじゃないけれど、カズくんが楽しみにしてくれているし、花火大会に行く時は浴衣でも着てみようか。そう思えるくらいには、わたしも夏を楽しみたいようだ。

[ back to top ]