ぽつぽつと雨粒が窓を叩く音で、雨が降り始めたことを知った。そういえば、今日は雨が降るって予報だったっけ。テレビで見た天気予報をぼんやりと思い出しながら、両手で持っていたマグカップに口をつける。こくり、と口の中に広がる甘いココアを嚥下して、視線をテレビへと移す。なんとなく見ているドラマは、ちょうどクライマックスに差し掛かったようだった。
「……やっぱり、この監督の作品は面白いな」
私の隣に腰かけている天馬くんは、食い入るように画面を見つめていた。その瞳はキラキラと輝いていて、まるでアメジストみたい。
「天馬くん、この監督さん好きなんだっけ」
「ああ。前にご一緒した時にファンになったんだ」
天馬くんが出演してるならちょっとだけ見てみたいかも。そう思いながらテーブルにマグカップを置いた時だった。
「うわっ!?」
「……っ!」
ゴロゴロと大きい音がして、思わずぴくりと肩が跳ねた。音の大きさから推測するに、近くに雷が落ちたことは間違いないだろう。
「かなり大きかったな……近くに落ちたんじゃないか?」
「た、ぶん……」
微かに震える両手をきゅっと握る。そうでもしないと、怖くてどうにかなってしまいそうだったから。大きい音が苦手な私にとって、雷は天敵に近い。しかも近くに落ちたとなると、いつも以上に恐怖が心を蝕んでいく。
「怖いのか、なまえ」
「…………」
その問いかけに素直に頷くと、大丈夫だと笑った天馬くんが私の手を優しく握った。
「お前が落ち着くまで、このまま手を握ってても……」
彼の言葉は、再び落ちた雷の音によって遮られた。しかも今度はさっきよりも近くに落ちたのか、停電してしまって。明かりの消えた部屋と、いつの間にか強くなっていた雨の音に混じって聞こえる、雷の音。暗闇になってしまったことも相まって、それらによって感じる恐怖は増幅していく。
「だ、大丈夫だ……! すぐに予備電源に切り替わる……、うわっ!?」
カーテン越しに窓がピカッと光り、それを追いかけるように雷鳴が轟いた。ぎゅっと握られた手から、天馬くんの体が強ばっていることが伝わってくる。彼はこう見えて怖がりだから、停電してしまったことにより一気に恐怖が増したのだろう。
「大丈夫、だよ。天馬くん」
暗闇の中で、繋がれている手にきゅっと力を込める。ひとりじゃないから大丈夫だよ、と伝わるように。さっきは天馬くんが私を安心させてくれたから、今度は私の番。
「べ、別に怖くなんてないからな!」
「うん」
「怖くない、が……なまえがどうしてもって言うなら、繋いでてやる」
未だに電気は戻らず、部屋は真っ暗。相も変わらず雨は降っていて、時々雷鳴が轟く。そんな状況だというのにもう恐怖を感じないのは、素直じゃない彼のおかげ、かな。