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オレンジ色に溶けたふたり



 一歩、また一歩と歩み進める毎に、食材とエコバッグががさがさと音を立てるそんな帰り道。鮮やかな赤髪がくるりと振り返って、それからわたしの名前を紡いだ。

「なまえさん、荷物重たくないッスか?」
「このくらい大丈夫だよ。太一くんこそ平気? そっち重たくない?」
「ぜーんぜん余裕ッスよ! こう見えて俺っち、力持ちなんで!」

 まだまだ余裕だなんて笑う彼に、高校生は元気だなぁと思う。わたしも数年前までは高校生だったけれど、太一くんほどの元気はなかったような気がする。わたしが落ち着いた高校生だったのか、それとも彼が元気いっぱいすぎるのか。どちらにせよ、足して二で割るとちょうどいいくらいかもしれない。

「そうだ。太一くん、今日はうちでご飯食べて行くんだよね」
「はいッス! 臣クンにもそう言ってあるッス♪」
「それじゃあ腕によりをかけて作らないと」
「なまえさんのご飯、めちゃくちゃ楽しみッス! 俺っちもう、お腹ペコペコで……」

 太一くんがそう言ったタイミングで、ぐーきゅるるる、と彼のお腹が空腹を訴えた。堪えきれなくてくすくすと笑っていると、ふっとわたしより前を歩いていた彼を近くに感じた。どうして近くに来たんだろうと思うのと、車がわたし達の横を通り過ぎたのはほぼ同時だったと思う。

「太一くん、ありがとう」
「え? な、何のことッスか?」
「車が通るからって車道側に移動してくれたでしょ? だから、ありがとう」
「えっ、バレてたんスか!? ……やっぱ、万チャンみたいにさり気なく〜って難しいッスね。俺っちには無理みたいだ」

 格好つけるって難しい! と太一くんは頭を抱えた。そんな彼を見て、これは気付いていても言わない方がよかったかなと察する。でも彼の気遣いが嬉しかったし、何よりさり気なくなんて太一くんっぽくない、というかなんというか。さり気なくなんてなくっても、格好がつかなくても、そういう気遣いができる優しい君を好きになったから。無理に背伸びをしなくても、そのままでいてほしいとわたしは思うわけで。

「太一くんはそのままでいいと思うな」

 わたしの言葉が予想外だったのか、彼の目が驚かれたように見開かれる。綺麗なシアン色の瞳には、夕焼け色の街並みが映り込んでいた。

「さり気なくなんてなくても、格好がつかなくても。そういう気遣いができるのって素敵だと思うし、わたしは嬉しかったから」
「なまえさん……で、でも、男は好きな子の前では格好つけたいって思うんスよ〜!」
「そういうものなの?」
「そういうものなんスよ!」

 女心は難しいとよく言うけれど、男心もどうやら難しいようだ。そう思いながら見上げた空は、わたし達を見守るかのように優しいオレンジ色に染まっていた。

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