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カクテルに落とした本音



 テーブルの上にぎっしりと乗っている料理のお皿の数々と、それぞれの手元にはお酒のグラス、またはジョッキ。もう既に酔い始めている人もいるのか、このテーブルはやけに賑やかだった。
 どうしてこうなったんだっけ、と思いながらカクテルが入っているグラスに口を付ける。
 私が今、どうしてこの居酒屋で行われている合コンの場にいるのか。その事の発端は友達だった。どうやら先輩に誘われた合コンに参加するらしい彼女に、急遽人が足りなくなったから人数合わせで来てもらえないかと頼まれたのだ。私は合コンに興味はなかったし、特に出会いも求めてなかったので断るつもりだった。それなのにどうしてもと頼まれては断り切れなくて、結局参加することになって冒頭に戻る。

(正直、すごく帰りたいんだけど……)

 ちらりと隣に座っている友人を見ると、彼女はちゃっかり男と楽しそうに会話していた。そこに割って入り、先に帰るねとは言いにくい。本格的にどうしようかと思い始めたあたりで、とんとんと肩を叩かれた。誰だろうと思いながら視線を向けると、そこには確か向かい側に座っていた人物がいた。名前は確か、三好くん、だったろうか。

「えっと、私に何か?」
「ちょーっとキミに話があってさ。勝手に隣に座っちゃったけど、よかったかな?」
「それは構わないけれど……」

 話って何、と私が言葉を続ける前に、彼の方が先に口を開いた。もしかして帰りたいって思ってたりするかな、と。

「……気付かれてたんだ」
「なんとなくそうかな〜って思ってたんだけど、ビンゴだった?」

 ここで嘘をつく必要もないので、私はこくりと頷く。ここに来たくて来たわけじゃないし、この場から抜け出せるなら何だってよかった。

「じゃあさ、オレと抜け出さない?」
「……私、別のお店に行くつもりはないよ」
「みょうじさんつれないな〜! でもいいよん、最初からそのつもりなんてなかったし」

 それってどういう意味かと尋ねる前に三好くんは私から視線を逸らして、先に抜ける旨を皆に話していた。じゃあ行こっかと立ち上がった彼に続いて、私もバッグを片手に立ち上がる。隣にいた友達にそれじゃあと手を振ると、にやにやした顔で見られた。いや、別にそういうのじゃないから。心の中でそう否定しながら、私は三好くんと共に居酒屋を抜け出した。

「駅まで送って行くよん☆」
「え、いいよ」
「いいからいいから!」

 オレと抜け出さないかと言ってきた割には、あっさりしているというかなんというか。帰りたいと思っている私に気付いて声を掛けてくれて、ああやって誤解されながらも変に思われないように一緒に抜け出してくれて。最初はチャラい人だと思っていたけれど、よく周りを見ている優しい人なのかもしれない。人は見かけによらない、とはよく言ったものだ。

「三好くん」
「ん〜?」
「ありがとう。正直、声を掛けてくれて助かったよ」

 私がそう言うと、三好くんは困ったように笑う。疑問に思って首を傾げると、実はさ、と彼が口を開いた。

「みょうじさんに声を掛けたのって、下心がないって言うと嘘になるんだよね」
「…………え?」

 三好くんのその言葉に思わず足を止めると、一歩前を歩いていた彼も同じように足を止めた。そして私の方を振り返った瞳に、やけに真剣に見つめられる。

「キミのこと、ずっと気になってた。って言ったら、どうする?」

 不覚にも、どくんと心臓が跳ねた。そんなの、実質告白しているようなものじゃないか。最初からそのつもりなんてなかったと言いながら、ふたりきりになれると期待して私に声を掛けたのか。お酒が回ってきた頭では、正常に判断することは難しい。

「なーんてね! 早く駅まで帰ろっか」
「う、うん」

 さっきの居酒屋の料理、結構美味しかったよねと話す彼は、たぶんきっといつもの三好くんで。今さっきの真剣な表情の彼は、もういない。
 結局この日の私は、どれが彼の本音なのかわからなかった。ただあの合コンの日以来、大学ですれ違うとよく声を掛けられるようになった、気がする。その理由はもしかして……なんて。

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