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スノードロップ



 入学式なんてつい昨日のことのように思えるけれど、決してそんなことはなくて。時間は無情にも確実に進んでいる。そのことに気付かされたのは、先生がやたらと「高校最後の」なんて単語を口にするからだろう。
 そんな先生の話を聞き流しながら、視界に入り込んでくる鮮やかな赤髪を見つめる。クラスどころか学校中でも目立つであろうその髪の持ち主は、わたしの好きな人。一年生の頃から片想いをしてきた彼とも、卒業したらもうお別れだ。
 ……ただのクラスメイトという、今の関係性を変えない限りは。
 わたしは彼、七尾くんと特に関わりがあるわけではない。三年間同じクラスだったというだけで、友達でも知り合いでもなんでもないのだ。だからこそ、一歩踏み出して告白をして振られたとしても、今の関係が壊れてしまうという心配はしなくていい。それをよかったと思うべきなのか、もう少し仲良くなればよかったと後悔するべきなのかは、わからないけれど。
 ちらりと時計に視線を移すと、もう授業が終わる時間だった。今日はもう授業もないし、ホームルームさえ終わってしまえば自由になる。思い立ったが吉日とはよく言うし、一歩踏み出すのが今日でもいいかもしれない。授業の終わりを告げるチャイムが響き渡る中、わたしは鮮やかな赤にそっと想いを馳せた。

***

 ホームルームが終わって今まさに帰ろうとしていた七尾くんに声をかけて、連れ出した先は屋上。今の時間に誰もいない教室なんてあまりないし、廊下は生徒で賑わっているから避けたかった。その結果、屋上ならと思ったのだけど。

「う〜、寒いッスね……」
「ご、ごめんね……」

 冷たい風が吹き抜ける冬ともなれば、わざわざ屋上に来る人間なんていない。だからこそ告白するにはうってつけなのだけど、如何せんとても寒い。

「このままだと七尾くんが風邪引いちゃうし、さっそく本題に入るね」

 冷たい風がじわじわと熱を奪っていくけれど、それ以上に体温はぐんぐん上昇していく。心臓がばくばくとうるさくて、もうどうにかなってしまいそうだ。
 両手をぎゅっと握りしめて、真っ直ぐにシアン色の瞳を見つめる。彼の瞳は、見ているだけで吸い込まれそうなほどに綺麗で澄んだ色をしていた。

「……わたし、七尾くんのことが好きです。ずっと、ずっと前から」

 告げたその瞬間、彼の瞳は大きく見開かれた。そしてワンテンポ遅れて大袈裟なほどに驚く声が聞こえた。

「ええっ!? す、好きって、俺っちのことを……? 人違いとかじゃないッスよね!?」
「人違いじゃないよ。わたしが好きなのは、今目の前にいる人……七尾くん、なので」

 そう笑いかけると、七尾くんの顔はわかりやすく赤みを帯びていく。かく言うわたしの顔も、きっと赤くなっているのだろうけれど。

「えっと……みょうじさんの気持ち、すごく嬉しい! 俺っちでよければ、これからよろしくッス!」

 照れ笑いながら差し出された手に、恐る恐る自分のそれを重ねる。
 ぎゅっと握られた手の感触も、この寒さも、彼の笑顔も、わたしは忘れないだろう。ただのクラスメイトでしかなかったわたし達の関係が変わったこの瞬間は、きっと忘れることなんてできない。早鐘を打つ鼓動がそう言っているような、そんな気がした。

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