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雨音が彩る朝に



 眠りに落ちていた意識は、ぽつぽつと雨粒が窓を叩く音によって浮上した。まだ眠いのか重たい瞼を持ち上げれば、見慣れた天井が視界に入る。いつもより少し部屋が暗く感じるのは、きっと雨が降っているからだろう。晴れている日はカーテンの隙間から日差しが差し込んで眩しく感じるけれど、雨の日はそれがない。
 じめっと水分を含んだ空気と、どんよりとした空模様。しとしとと空から降って来ては、街を濡らしていく雨。人によっては嫌に思えるかもしれないこの天気が、雨の日が、俺は好きだった。

「……目が覚めちゃったな」

 今は朝だから、目が覚めるに越したことはないんだけど。今日はこれといった予定も特になかったし、たまには二度寝してもいいかも……なんて、昨夜はそんなことを思っていたというのに。結局目が覚めてしまった。

「なまえは……まだ寝てるのか」

 ふと隣に視線を向けると、まだ眠っているらしい彼女が気持ち良さそうに寝息を立てている。俺を映してくれる綺麗な瞳も、今は閉じられた瞼によって隠れていて見えない。

(朝食の準備でもしてようかな。今朝は何がいいだろう)

 キッチンに何が残っていたか確認してから、朝食のメニューを決めた方がいいだろう。そう思って眠っているなまえを起こさないように、そっとベッドから抜け出すつもりだった。
 寝起きだからか舌っ足らずな声で紡がれた、俺の名前が聞こえるまでは。

「んん……ひーす……?」

 その声に誘われるように振り返れば、完全には起きていないのかぽやぽやとした瞳が俺を見つめていた。

「あ……ごめん、起こしちゃった?」
「ううん。自然と目が覚めたから、大丈夫」

 目が覚めたと言っているけれど、なまえはまだ眠いようであくびをこぼしている。このままもう少し寝かせてあげた方が良さそうだ。

「なまえはまだ眠ってて。朝食は俺が準備しておくから」
「わたしも手伝うよ」
「眠いんだろ? 無理しなくていいよ」

 俺一人でも大丈夫だからと言っても、彼女はふるりと首を振ってダメだと主張してくる。手先は器用な方だから簡単な物なら作れるし、本当に大丈夫なのに。

「ねぇ、ヒース。今日は特に予定もなかったよね」
「え? うん、そうだけど……」
「……じゃあ、もう少し一緒にいてほしい、です」

 ゆっくりと起き上がったなまえの手が、俺の寝間着の裾をきゅっと掴む。それは控えめなようでいて、だけど「行かないで」という意志を感じる力加減だった。

「う、ぐ……わ、わかった。一緒にいる、から」

 誰かと一緒にベッドで眠ることなんてそうなくて、全然落ち着かなかったはずなのに。いつからか彼女と一緒に眠ることが当たり前になって、落ち着きさえ覚えるようになって。
 再びベッドへ横になった彼女に促され、仕方ないな……と俺も一緒に横になる。するとなまえはもぞもぞと動いて、俺の腕の中へとやって来た。そんな彼女をそっと抱き締めながら、外から聞こえてくる雨音に耳を傾ける。俺達の一日が始まるのは、もう少しだけ後になりそうだ。

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