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きっといつかのプロローグ



 中学の時もクラスの女子達は皆、恋バナで盛り上がっていたけれど、それは高校に通うようになってからも変わらなかった。何組の誰がかっこいいとか、隣のクラスの子あの先輩と付き合ってるらしいとか、エトセトラ。よくもまぁ飽きずにそういう話ができるなぁと思ってはいるものの、恋愛小説やら少女漫画やらを読んでいるわたしが文句を言えた義理ではないか。

「はぁ……今回のもめちゃくちゃ良かったなぁ」

 読み終えたばかりの恋愛小説を閉じて机の上に置き、胸に込み上げるときめきを昇華しようと息を吐く。現実の恋愛ではこうはいかないと理解はしてるけれど、やっぱりこういう物語じみた恋に憧れてしまう。友達には、いつまで夢見てるのと半ば呆れられているのだけど。

「…………恋愛、か」

 思えば、恋はしたことがあっても恋愛はしたことがなかった。とは言っても、その感情は限りなく恋に近い憧れだったかもしれないけれど。だって、今まで好きな人が他の女の子と付き合い始めても、そこまでショックを受けなかったから。むしろ、あぁお似合いだなぁと思っていたくらいで。初恋は違ったかもしれないが、もうよく覚えていないのでわからない。

「わたしも、誰かと付き合ってみたらわかるのかなぁ。まぁ、そんな人いないけど……」

 なんて独り言ちていると、わたし以外には誰もいなかった教室のドアがガラリと開いた。もうクラスの皆はほとんど帰るか部活や委員会などに向かったはずなので、誰だろうと思いながら視線をドアの方へと向ける。

「あれ? まだ残ってる人いたんだ。帰らないの?」
「泉谷くんこそ」

 実は忘れ物しちゃって、それを取りに来たんだと教室に入ってきた彼は、自分の席まで行くとがさごそと机の中を探し始めた。でも忘れ物はすぐに見つかったらしく、あったあった! という声が放課後の静かな教室に響く。

「見つかってよかったね、忘れ物」
「ホントホント! 見つかってよかったー!」
「ちなみにだけど、何を忘れたの?」
「え? あぁ、明日提出のプリントだよ。僕、ひびくんに言われるまですっかり忘れちゃっててさ〜」

 彼の答えを聞いて、そういえば明日が提出締切のプリントがあったなぁと思い出す。まだ提出してない人は必ず明日提出するようにと、ホームルームの時に先生が言っていたっけ。そして泉谷くんは未提出組だったらしい。

「ところで、さっきみょうじさんが言ってた話なんだけど」
「? さっき……?」
「そうそう! わたしも誰かと付き合ってみたら〜とか、言ってたでしょ?」

 泉谷くんの言葉にぴしりとわたしの動きが止まる。あれは聞かれていないと思っていたし、仮にもし誰かに聞かれていたとしても、聞かなかったことにしてくれるかなと思っていたのに。

「いや、えっと、それは……」
「ねぇ、それって僕じゃだめ?」

 いつの間にかわたしの目の前にやって来ていた彼は、そんなことを言った。おそらく冗談だろうと思ったのに、わたしを見つめるその瞳は、とても冗談を言っているようには見えなくて。

「だめ、というか……え、本気?」
「本気も本気、ちょー本気だよ! だって僕、きみが好きだから」

 それでみょうじさんが他の人と付き合うなんて嫌だから告白したんだ。そう言葉を続けた泉谷くんは、普段教室で見ているような明るい感じではなく、どこまでも真剣な表情をしていた。

「……ごめんなさい。こんな形で付き合い始めてしまったら、それは泉谷くんの気持ちに対して失礼だと思う。さっきのはその、付き合ってくれるなら誰でもいいみたいに聞こえたかもしれないけれど、そうじゃなくて……」

 誰かを好きになったことはあっても付き合ったことはないから、恋はわかっても恋愛はわからないなって思って、それで。などと弁明していくうちに、だんだん彼の顔を見ることができなくなって。逃げるように落とした視線の先は、さっきまで読んでいた恋愛小説。こんなことになるなら、続きが気になるからって教室に残って読むんじゃなかった。そうすれば、彼を傷付けてしまうこともなかったのに。

「……それってつまり、みょうじさんが僕を好きになってくれたら付き合ってくれるってことだよね!?」
「え?」
「しかもしかも、付き合えることになったら僕が初めての彼氏でしょ? うわぁ、それめちゃくちゃテンション上がる!」

 驚いて顔を上げると、テンションが上がっている泉谷くんと目が合った。告白されて、だけどそれを断って。傷付けてしまっただろうな……と思っていたのに、どうして目の前の彼はこんなにも嬉しそうなのかと戸惑う。

「きみに好きになってもらえるように、ましゅーがんばりまっしゅ!」

 そう言いながらにっこりと笑う泉谷くんを見てちょっとだけ、小さく心臓が跳ねる。さっき告白をされた影響で、彼のことを意識してしまっているのかもしれなかった。あぁ、きっともう、ただのクラスメイトとしては見られない。




『Words Palette Select me.』より
11.未来を盗み出して(俺じゃだめ?、落とした視線、いつまで)


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