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君想う夜這星



 眠りに落ちていた意識がゆっくりと浮上して、ごろんと寝返りを打ちながら目を開けた。今は何時だろうかと気になって、枕元に置いていたスマホを手に取り画面に表示された時間を確認する。現在の時刻は深夜三時を少し過ぎたところ。アラームを設定してる時間はまだ先だし、もう一眠りできそうだ。

「……あれ、いない?」

 スマホを再び枕元に戻して寝返りを打ったところで、隣で眠っているはずの彼がいないことに気付く。いつもならたぶん、お手洗いか煙草を吸いに行ってるかだろうと思って気にせず寝ていたと思う。でも、今日はそれができなかった。
 ベッドを抜け出して、その足で部屋を後にする。フローリングの廊下を歩き進み、明かりが漏れているリビングへと続くドアを開けた。見渡してみても研二くんの姿はなくて、どこに行ったんだろうと思った時だった。どこからか風が吹き込んで、窓辺のカーテンがふわりと揺れる。その瞬間、彼がどこにいるのかすぐにわかった。早足で向かい、その手で少し空いていた窓をカラリと開けると、探し人はそこにいた。

「ん? どうしたの、目が覚めちゃった?」

 煙草を吸っていたのだろう、吸いかけのそれを片手に振り返った彼が私の顔を覗き込む。鼻先を掠めた煙草の匂いに、ああ研二くんだと感じていた不安がじわりと溶けていく。それでもここに彼がいると確かめたくて腕の中に飛び込めば、驚いた声を上げながらも私を受け止めてくれた。背中に腕を回して、まるでしがみつくようにして抱きつく。

「なぁに、怖い夢でも見ちゃったのかな」

 吸いかけだった煙草はいつの間に処分したのか、研二くんの手がするりと優しく髪を撫でる。
 怖い夢、と言えばそうかもしれない。詳しい内容までは覚えていないけれど、彼が私の前からいなくなってしまったということだけは覚えている。だから目が覚めた時、隣に研二くんの姿がなくて驚いたし、もしかして本当にいなくなっちゃった……? と最悪の事態が頭を過った。

「……目が覚めたら研二くんいなくて、びっくりした」
「あー、ごめんな。なーんか寝付けなくってさ、一服しようと思って来たらズルズルと長居しちまって」

 ふるふると首を振る。別に彼が謝る必要はないし、謝ってほしかったわけじゃない。研二くんがいないことに勝手に驚き、勝手に不安を覚えたのは私だ。誰だってなんか寝付けないなぁって時はあるし、そういう時に敢えてベッドから出て違うことをしてみる人だっているだろう。例えばホットミルクを飲んでみるとか、それこそ彼のように一服するとか。だから研二くんは何も悪くない。

「けど、嬉しかったよ。なまえちゃんが俺を探しに来てくれて」

 俺ってば、なまえちゃんに超愛されてるなぁ。なんて嬉しそうな声が上から降ってくる。抱き締められているので見えないけれど、きっと砂糖を溶かしたような甘く緩んだ顔をしていることだろう。あの表情、可愛くて結構好きだから見えないのがちょっと残念だ。
 目が覚めた時に感じた不安は、今はもうない。おそらく目を閉じたら、そう時間はかからず眠りに就けるだろう。隣に、君がいてくれたら。



『Words Palette hug!』より
10.ハグで一掬い(しがみつく、怖い、目を閉じる)


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