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僕抜きには夜も越せない



 怖い夢を見たからといって泣くほど、もう子供ではないけれど。それでも怖いものは怖いし、そんな夢を見たあとは寝直すのにも苦労するわけで。だから、出来ることなら見たくはないのだ。怖い夢なんて。

「……っ!」

 はっと目覚めると、ばくばくとうるさいくらいに心臓の音が速くなっていて、胸が痛い。そして手が震えていた。震える両手をぎゅっと握りしめて、ゆっくりと息を吐く。感じている恐怖が少しでも和らぐように。
 目が覚める直前まで見ていた夢は、たぶん割とよくあるような内容で。わたしの隣で眠っている彼、陣平さんが死んでしまう夢だった。それもわたしを庇って死んでしまうという、最悪な夢。目の前で倒れていく彼の体も、ぬるりとした血の感触も鮮明で、妙に現実感があった。だからこそ今すぐにでも陣平さんに抱きついて、彼の温もりを感じたい。でも、眠っているであろう彼にそんなことをしたら起こしてしまうかもしれないし、それは申し訳ないから。

「……おい」

 眠っていると思っていた彼に突然声をかけられ、驚いて思わず肩が跳ねた。さっきまで悪夢を見ていたせいか、過剰に反応してしまったようにも思う。

「夢見が悪くて目ぇ覚めちまったんだろ?」

 どうしてわかったのかはわからないけれど、その通りなのでこくんと頷く。もしわたしのせいで起こしてしまったのなら申し訳ないなと謝れば、別にたまたま目が覚めただけだと返された。

「眠れそうか?」
「しばらく無理そうです。まだ手が震えてて……」

 治まってきてはいるものの、わたしの手はまだ微かに震えていた。鼓動の方は落ち着いて正常に戻りつつあるとはいえ、これじゃあなかなか寝付けないだろう。最悪、このまま朝を迎える可能性さえある。

「こっちに寝返り打てるか」
「は、はい」

 とりあえず言われた通りにごろんと寝返りを打つと、こちらへ伸びてきた腕によって抱き寄せられた。トクトクと感じる彼の鼓動、彼の体温に匂い。それらによってじわじわと恐怖が溶けていって、ひどく安心した。

「こうしてればそのうち寝れんだろ」
「ありがとう、ございます」

 口は悪いし、ぶっきらぼうだし、勘違いされやすい人だけど。その実、こんなにも温かくて優しい。やっぱり陣平さんが好きだなぁと思いながら、わたしの意識はゆらゆらと眠りへ傾き出していた。



Title dy icca

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