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「#エロ」のBL小説を読む
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これを運命と名づけよう



 キミと初めて出会った日のことを、オレは今でも覚えてる。ふわりと一陣の風に拐われた髪を掻き上げて、その時手首につけていたブレスレットが、太陽の光に反射して輝きを放っていた。なんかアニメとかゲームとかでありそうだなぁと、オレはぼんやり見入ってしまって。そうしたら彼女が、今日は風強いですねと言って笑いかけてくれた。その時にはもう、恋に落ちていたような気さえする。

「えっ、そんなことあったっけ?」
「あったんだな〜、これが。……やっぱり、なまえちゃんは覚えてなさげだけど」
「ごめん、全然記憶にないです」
「いいっていいって。本当にそれだけだったし、覚えてなくても仕方ないよ」

 あの時は本当にそれきりで、また次も会えるだなんて、まさかこうして付き合えるだなんて思ってもみなかった。きっと、あの時のオレが見たらびっくりするんだろうなぁ。えっ、あの時の人と付き合ってんの!? って。

「あ、でも、さすがに次に会った時は覚えてるよ。SNS映えするって人気のカフェだったよね」
「そうそう! まさかの隣の席だったっていう」
「志朗くんがあの時の……! って驚いてるのに対して、私には何のことだか全然わからなくて。最初はこの子大丈夫かなって思ってたよ」
「えぇっ!? そんなこと思ってたの!? オレは、これって運命ってヤツ!? とか浮かれてたのに……」

 あからさまに落ち込むオレを見て、なまえちゃんはくすくすと笑いながらごめんねと言う。オレが年下だからなのか、はたまた彼女が人をからかうのが好きだからなのかはわからないけれど、彼女はよくこうやってオレをからかっては楽しむ。とは言っても嫌な気はしない。それはたぶん、なまえちゃんの加減の上手さだろう。それに、思い返してみれば学生時代、よくミカさんやコスモさんにからかわれていた気がするし。オレってそういうポジションなのかな。

「でも、志朗くんが私のことを覚えてなかったら、今こうして一緒に居なかったかもしれないね」
「確かにそうかも。あの時のオレ、覚えててちょー偉い! 褒めて遣わそう!」
「ふふ、あの時の志朗くんに感謝しないとね」

 そう言った彼女はオレに笑いかける。あの時、初めて出会った時と変わらない、オレの大好きな笑顔で。あぁ、やっぱりこの人が好きだ。たまらなくそう思って、オレはなまえちゃんに手を伸ばす。小さな手に触れると、彼女は何も言わずに握り返してくれた。
 拝啓、あの時のオレへ。彼女のことを覚えてたかつ、カフェで声をかけてくれてありがとう。あの時のことがなければ、オレはなまえちゃんと仲良くなることもなかったし、こうして今一緒に居ることもなかったと思う。今のオレがすげー幸せなのは、あの時のオレのおかげです。本当にありがと。



『甘々 文字書きワードパレット』より
6.ポップコーン(手を伸ばす、輝き、笑顔)


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