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放課後インターセクト



 クラス全員分あることを確認してから、数十冊のノートを両腕に抱える。本来であればこれは日直の仕事なのだけど、どうやら今日の日直はサボって帰ってしまったらしい。あとは黒板を綺麗にして、日誌を書いたら帰れるだろうか。まぁ、本来であればこれはわたしの仕事ではないのだけど。

(……でも、誰かがやらないといけないから)

 一冊や二冊なら重たくないけれど、それが数十冊となるとそこそこ重い。そう思いながら教室を出て、廊下を突き当たりまで歩いたその時だった。ドンッという衝撃を受けて抱えていたノートは散らばり、わたしはその場に尻もちをついてしまう。何が起こったのかわからないまま顔を上げると、視界に飛び込んできたのは綺麗な金色だった。

「すみません! 大丈夫っすか!?」
「……うん、大丈夫」

 ノートばらまいちゃってすみません。そう言って拾い集めてくれている彼は、源光くん。確か同じクラスの源くんの弟さんで、わたしが中等部に通っていた頃もこうして助けてもらったことがある。あの時はたまたまだったし、またこうして助けてもらえるなんて、話せるなんて思いもしなかったけれど。

「ごめんね、拾ってくれてありがとう」
「元はと言えば俺がぶつかったせいなんだし、先輩が謝ることないですよ」
「確かに、ちゃんと前を見て歩かないと危ないけど……でも、それはわたしも同じでしょ? こちらこそ前をよく見ていなくてごめんね。怪我はない?」

 大丈夫っすと笑った彼は、先輩こそ怪我はありませんかと心配そうにこちらを覗き込む。とくん、と心臓が跳ねるのを感じながら、どうにか大丈夫だよと言葉を紡ぐ。

「それ、結構量ありますよね。職員室までっすか?」
「そうなの。日直の子の代わりに運んでて……」

 わたしがそう言うと、源くんは何を思ったのかわたしが抱え直したノートの束から半分以上を奪った。

「えっ、どうして……?」
「先輩一人じゃ大変でしょ? オレ、手伝いますよ!」

 そう言って歩き出した彼は、数歩歩いたところでぴたりと歩みを止めた。そして振り返ると、高等部の職員室ってどこですかと聞いてきた。手伝いますと言って先陣を切ったのに、行き先である職員室の場所がわからないなんて。なんだかおかしくてくすくすと笑いながら、こっちだよとわたしも歩き出す。

「手伝ってくれてありがとう。優しいね、源くん」
「えっ。なんでオレの名前知ってるんすか!?」
「さぁ、なんでだろうね」

 なんでだ? と考え込む彼が可愛くて、またくすりと笑ってしまう。ああ、やっぱり好きだなぁ。以前も、そして今も、名前も知らないわたしのことを助けてくれる、優しい君のことが。

「あの、先輩」
「うん?」
「先輩の名前、教えてください。オレだけ知らないとか不公平じゃないッスか」

 わたしだけ知っていて、源くんは知らない。それでいいと思っていたけれど、自分は知らないのが不公平だと、君がそう言うのなら。

「みょうじなまえ」
「へ?」
「わたしの名前。みょうじなまえ、です」

 決して交わることはない平行線だと思っていた、わたしと彼の関係。だけどそれは、源くんの手によって交差してしまった。この道がまた平行線に戻るのか、それとも繋がるのか。それはたぶん、わたし次第……なのかな。

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