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「#エロ」のBL小説を読む
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愛しいひとの腕の中で。



 ぽつりぽつりと降り出した雨は、いつの間にか強さを増していた。雨粒が窓を叩く音をBGMに布団に入ってから、どのくらいの時間が経っただろうか。ちらりと時計を見ると、そこには夜中の二時と表示されている。少なくとも、寝付けなくて二時間以上は経過しているようだった。
 このままだと埒が明かないなぁと思ったわたしは、ベッドを抜け出して部屋を後にする。冷たいフローリングの上をぺたぺたと歩いて、閉ざされている部屋の扉をノックする。ああでも、この部屋の主はもう既に眠っているかもしれない。

「どうぞ」

 扉の中から聞こえてきた声に、まだ起きていたのかと驚いた。でも薫さんは読書が好きだし、明日はオフだと言っていたから、起きていてもおかしくはないかもしれない。そんなことを思いながら、お言葉に甘えて扉を開けた。

「あ、あの、薫さん」
「君はまだ起きていたのか? 睡眠はきちんと取るようにと、あれほど言ったはずだが」

 読んでいた本をパタンと閉じながら放たれた言葉に、思わず身が縮こまる。確かにわたしはついつい夜更かしをしてしまいがちで、その度に薫さんに呆れられたり、怒られたりしている。だけど今日は違う。日付けが変わる前にきちんと布団に入っていたし、寝ようと努力はしたのだ。……結局、眠れなかったけれど。

「か、薫さんだって起きてるじゃないですか」
「僕のことはいいだろう」
「……自分のことは棚に上げるんだ」
「何か言ったか?」

 ふるふると首を横に振ると、薫さんはそうかと呟いて再び本へ手を伸ばした。きっと彼は、わたしがこのまま突っ立っていても読書を続けるだろう。そんなところに突っ立っていると風邪を引くぞ、なんて言いながら。

「あの、薫さん」
「何だ」

 ぺらり。薫さんの指によって捲られたページが静かに音を立てた。
 読書の邪魔をしてしまうのは気が引けるけれど、このまま突っ立っているのも、ひとり部屋に戻るのも、嫌だから。わがままを許して欲しい。

「一緒に寝てくれませんか?」
「……何を言っているんだ、君は」
「ひ、ひとりじゃ、眠れなくて……」

 だから、とわたしが言いかける前にパタンと本を閉じる音が聞こえた。薫さんはそれをサイドテーブルに置くと、自分のベッドへと入っていく。

「そんなところに突っ立っていないで、早くこちらに来たらどうだ。なまえは、一人じゃ眠れないのだろう?」

 わたしにそう言った彼の口角は少し上がっていて、わざと「一人じゃ眠れない」と言ったことが窺える。からかわれた気がして、あんなこと言うんじゃなかったなぁと後悔をしながら、わたしもベッドに入る。さっきまで無人だったそこは、まだ冷たい。その冷たさに身震いすると、彼の腕がこちらへ伸びてきてわたしの体を包んだ。

「か、薫さ……」
「寒いのだろう? それなら、大人しく僕の腕の中にいるといい」

 まぁ、僕よりもなまえの方が体温は高いが。付け足された言葉に、確かにわたしの方が体温は高いなぁと思った。でも、薫さんの腕の中はいつだってあたたかい。それを彼は知っているのだろうか。たぶん、知らないだろうな。
 おやすみなさいを呟いて、そっと瞼を閉じる。優しい温もりに包まれながら、雨音に混じって聞こえる心音に耳を傾ける。ひとりで部屋のベッドに寝転がっていた時よりもずっとずっと心地よくて、わたしの意識はするすると眠りへ落ちていった。

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