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優しさの温度



 ソファに倒れ込むようにして横になっていると、ガチャリと音を立ててリビングのドアが開いた。ちょっとコンビニ行ってくると出掛けて行った彰人くんが帰ってきたのだろうと思い、おかえりの意味を込めてひらりと手を振る。普段ならもう少しちゃんと出迎えるのだけど、今日はそんな余裕なんてなかった。

「ただいま」

 彼が何を買ってきたのはわからないけれど、がさごそと袋から何かを取り出して冷蔵庫へしまう音を聞きながら、腹部に感じる鈍い痛みに思わず顔を顰める。

「大丈夫……じゃねえな。ちゃんと薬は飲んだんすか?」
「うん、さっきね。と言っても数時間くらい前だし、そろそろ飲めると思うからまた飲もうかな」

 前回飲んだ時から十分間隔は空いているので、鎮痛剤を飲んでも問題はないだろう。怠い体に鞭打ってゆっくり起き上がると、いつの間に用意をしていたのか、薬とミネラルウォーターを注いだコップが手渡された。

「あ、ありがとう」
「……ん」

 薬を飲むわたしを確認した彰人くんは、そのまま踵を返してリビングを後にした。御手洗いにでも行ったのかなと、口に含んだ薬をミネラルウォーターで流し込む。飲み終えたタイミングでリビングへ戻ってきた彼は、ブランケットを手に持っていて。わたしが体を冷やさないようにと、わざわざ取りに行ってきてくれたのだろう。

「一応、いるかと思ったんで」
「ありがとう……なんかごめんね」

 ふわりと膝に掛けられたそれに触れながら謝ると、別に謝る必要ねえだろと、彰人くんの手がわたしの頭を軽く撫でた。

「そういや、さっきコンビニで新発売のスイーツを買って来たんすけど……食えそうだったらあとで食います?」
「え、新発売の?」
「ああ。前になまえさんが気になるって言ってたやつ」

 言われてみれば、確かにそんな話をしたような気がする。でもそれを覚えていてくれて、しかも買いに行ってくれたなんて。元々彼は優しい子だけど、それにしても今日は至れり尽くせりすぎる。いくら月に一度のそういう日とはいえ、さすがにちょっと申し訳ない。

「なまえさん」
「ん?」
「俺がしたくてしてるだけだし、申し訳ないとか思わなくていいからな」
「えっ、なんで……」

 わたしの反応を見て「あー、やっぱりそうか」と言った彰人くんは、どうやらわたしが申し訳なく感じていることに気づいていたらしかった。

「しんどい時くらい、素直に甘えればいいじゃないすか」

 他にも何かあれば、遠慮しないで言ってください。そう言葉を続けた彼はソファに腰を下ろすと、私の肩をそっと抱いて自らの方へ引き寄せた。
 彰人くんにはもう、充分すぎるほどの優しさを貰っている。何かあれば遠慮せず言っていいと言ってくれたけれど、これ以上望むものはない。だけど強いて言うのであれば、少しの間だけでいいから傍にいてほしいくらいで。……もしかしたらさっき抱き寄せられたのは、わたしがそうしてほしいとわかっていた上での行動だったのかもしれない。もしもそうだとしたら、やっぱり彼は優しい子だ。

「……おい」
「うん?」
「その目。オレのことガキ扱いしてんだろ」
「してないよ。気のせいじゃない?」

 否定はしたものの納得はしていないのか、彰人くんの表情は不服そう。そうやって感情が顔に出やすいところは可愛いなと思っているのだけど、それを言ったら「やっぱりガキ扱いしてるじゃねえか」とか言われそうなので黙っておく。

「……彰人くん」
「ん?」
「ありがとう。スイーツ、あとで一緒に食べようね」

 彼の肩にこてんと頭を預けて、ゆっくりと瞼を閉じる。薬が効いてきたのか、腹部の痛みが少しずつ楽になってきた。痛みが楽になったからなのか、それとも彰人くんに体を預けて瞼を閉じてしまったせいなのか、わたしの意識は緩やかに眠りへと落ちていく。寄り添ってくれている彼の温もりを感じながら。

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