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人はそれを愛と呼ぶ



 少し寄りたいところがあるんだが、いいだろうか。そう彼に聞かれて了承し、勝手知ったると言わんばかりに歩き進む背中を追いかけて、辿り着いた先は。

「ここって……ゲームセンター?」
「ああ。もしかして、苦手だったか?」
「ううん、大丈夫だよ。ただ、冬弥くんもこういう場所に来るんだなぁって、ちょっと意外で」
「よく言われる」

 一見、クールで大人しそうな見た目をしている彼が実はゲームセンターが好きだなんて、なかなかにギャップだ。もちろん、いい意味で。あまりそういうイメージはなかったけれど、結構ゲームとか好きなのかもしれない。どういうゲームが好きなのかは、全く想像もつかなかったけれど。

「付き合わせて悪いな」
「全然! 久しぶりに来たし、私も何かやってみようかな」

 店内にずらりと並ぶクレーンゲームの景品達に視線を向けると、可愛らしいクマのぬいぐるみと目が合った。相手がぬいぐるみと言えど、こうもしっかり目が合ってしまうとその場から動けない。試しにやってみようかな、とそのぬいぐるみがいる機体に向けて一歩踏み出すと、頭上から冬弥くんの声が降ってくる。

「あのクマのぬいぐるみが欲しいのか?」
「う、うん。なんか目が合っちゃって……」
「……なまえ、悪いがこれを持っていてくれ」
「え? あ、うん」

 差し出されたぬいぐるみを反射的に受け取ると、彼は私が欲しいと言ったクマのぬいぐるみがある機体へと歩いていく。そしてナチュラルに受け取ってしまったけれど、このぬいぐるみもどこかの機体の景品だったのではないだろうか。ちょっと待って、冬弥くんいつの間に取ったの。

「よし、取れたぞ」
「えっ!? もう!?」

 取り出し口からクマのぬいぐるみを取り出した彼は、どうぞとそれを私に差し出す。あまりの早さに理解が追いついてない頭で、どうにかお礼の言葉を絞り出してぬいぐるみを受け取った。

「冬弥くん、クレーンゲーム得意なんだね」
「得意……かはわからないが、嫌いではない。ただ、家には持ち帰れないから引き取り手に困るがな」
「あぁ……ぬいぐるみって結構場所取るもんね。私もベッドの一部は可愛い子達に占拠されてるよ」

 そのベッドの一部を占拠しているぬいぐるみ達の中に、今日からこの子も加わるんだ。冬弥くんが取ってくれたというだけで、他のぬいぐるみよりもちょっぴり特別なクマのぬいぐるみが。

「ぬいぐるみに占拠されているベッド、か。それはまた、可愛らしいな」
「さすがにちょっと子供っぽいかな、とも思うんだけどね……」
「でも、なまえはぬいぐるみが好きなんだろう?」

 素直にこくりと頷けば、じゃあそれでいいんじゃないか、と言葉が続けられた。そっか、そうだった。彼は人の好きな物を否定したり、それこそ子供っぽいと馬鹿にするような人じゃない。好きならそれでいいと、そう言ってくれる人だ。

「……やっぱり、好きだなぁ」

 ぽつりと呟いたそれは、色んな音が賑やかに混ざり合うゲームセンターでは掻き消されてしまって、彼の耳に届くことはなかった。だから、胸にじわりと広がった気持ちはまた改めて言葉にすることにしよう。今はただ、冬弥くんが好きという気持ちを噛み締めるように、彼が取ってくれたクマのぬいぐるみをぎゅっと抱き締めた。

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