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不器用なふたり



 わたしの好きな人は不器用で、自分を大事するのが下手だ。人に頼ることも苦手で、いつも自分一人で抱え込んでは周りに怒られて。それでも誰かが助けを求める声には一番に駆け付ける。彼はそんな人なのだ。だからこそ心配にもなるのだけど。

「千秋くん、無理してない?」
「俺は大丈夫だ! なまえこそ無理はしていないか?」
「え、わたし?」

 思わず自分を指差せば、千秋くんはそうだと頷いた。わたしは自分の限界をなんとなくわかっているし、手に負えない時は周りを頼るようにしているので、彼に比べたら心配される要素がない。どうして心配されたのかわからずに首を傾げていると、困ったように笑った千秋くんがわたしの腕を掴んで、そのままぐいっと引き寄せた。急に引っ張られたことによりバランスを崩したわたしの体を、彼の空いている方の手が支えてくれた。

「俺はおまえに、寂しい思いをさせてないか?」
「えっ……」
「ほら、なまえはあんまり寂しいとか言わないだろう?」
「そんなことないと思うけど……」

 嘘。たぶん、そんなことある。
 千秋くんの職業的に、忙しいのがいいことなのはわかっているつもりだ。だけどやっぱり会えない日がずっと続いたり、声が聞けないと寂しくて。でもそれを彼に言うのは迷惑なんじゃないか、負担になるんじゃないかと考えると、どうしても本音が言えなかった。会いたい、声が聞きたいっていうワガママが。

「俺は寂しいぞ。おまえの声が聞きたい、会いたいって毎日にように思っている」
「そ、んなの……」

 わたしだってそうだよ、とようやく言えた。発したそれは思っていたよりも小さくて、消え入りそうな声だったけれど、初めてちゃんと彼に言えた気がする。

「よかった。ようやく言ってくれたな、なまえ」
「それは、千秋くんがそういう流れを作ってくれたからで……」
「ん? 何のことだ?」
「あー、うん、そうだった。千秋くんはそういう人だったね」

 思わずくすくすと笑っていると、頭上からよくわからないがよかったと、優しい声が降ってきた。
 これからは寂しいとか会いたいっていうワガママを、もう少し彼に伝えてみようか。たとえその時会うことが難しかったとしても、それがきっかけに電話くらいはできるかもしれないから。

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