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恋煩いメランコリー



 一説によると、好きな人と出会う確率は約三十億分の一らしい。数字の桁が大きくてあまり想像もつかないけれど、そう簡単に出会えるほど優しい確率ではないことだけはわかる。
 じゃあ、仮に好きな人と出会えたとしよう。その出会った相手の好きな人が、もしも自分だったとしたら。両想いだった時の確率は、一体どのくらいなのだろうか。

「みょうじさんのことが好きです」

 自分で作りだした都合のいい幻か、はたまた夢か。そのどちらかだと言われた方がまだ信じられるほど、今目の前で起きていることが現実だと信じられなかった。好きな人から告白されている、なんて。

「あー……すんません。いきなり告白なんてされたら驚きますよね」

 苦笑いした漣くんは、告白するタイミングって案外難しいっすねぇと言葉を続けた。おそらく、わたしが何も言わないから困らせていると誤解をさせてしまったのだろう。
 何か、何か言わなきゃ。そう思っているのに、はくはくと開閉するだけの唇からは何の言葉も出てこない。喉にこびりついたように、声も上手く出せなかった。

(……やっぱり、こんなんじゃだめだ。わたしなんかじゃ、漣くんには……)

 好きな人、漣くんからの告白はとても、とても嬉しい。わたしも彼のことが好きだから、同じ気持ちだったんだと思うと鼓動が速くなって。でも、嬉しいのと同じくらい不安も覚えていた。それは、わたしなんかでいいのだろうかという不安。何か言おうにも言葉が出てこないのも、声が上手く出せないのも、たぶんそのせいだ。本当にわたしでいいのか、わたしなんかが漣くんに釣り合うのかとぐるぐる考えてしまうから。

「返事は今すぐじゃなくていいんで。ゆっくり考えて、今度聞かせてください」

 何か言いたくて、でも言えなくて。言葉にしようと藻掻くわたしを見て、彼は気遣うように優しく笑った。その笑顔も、返事は今すぐじゃなくていいと待ってくれる優しさも、胸がギュッと締め付けられて苦しい。
 それじゃあと踵を返した彼に手を伸ばして、その服を掴む。まさか止められるとは思っていなかったのか、驚いた漣くんがこちらを振り返った。

「まって……!」

 ようやく絞り出した声は少し掠れていた。だけど今なら、きっと言える。
 わたしが不安に溺れてしまっているだけで、返事は既に決まっているから。漣くんの気持ちが嬉しいと感じた、その瞬間に。あとはそれを伝えるだけだ。彼が伝えてくれた好きを信じて。

「……好き。わたしも、漣くんのことが好きです」

 やっと伝えることができた安心感からか、力が抜けて掴んでしまっていた彼の服から手が離れていく。重力に倣って下へと落ちていく手は、漣くんの大きな手に掴まれた。そのままぐいっと引き寄せられて、腕の中へと閉じ込められた。抱き締められていると頭が理解したのは、ワンテンポ遅れてからだった。

「……すげぇ嬉しいです。嬉しすぎて、抱き締めてもいいか聞く前につい抱き締めちまいました」

 けど今のオレ、嬉しさのあまり顔がニヤけてると思うんで。そんな間抜けな顔はあんま見られたくないですし、しばらくこのままでお願いします。
 続けられた言葉に何とか頷いて、彼の背中にゆっくりと腕を回した。抱き締められていて体が密着しているからか、漣くんの心臓の音が速くなっているのがわかる。たぶん同じくらい、わたしの鼓動も速くなっているだろう。ドクドクと脈打つ二つのリズムを感じながら、わたしを包む彼の温もりに身を委ねた。



『Words Palette hug!』より
8.胸は思い初める(服を掴む、ぐるぐる、見ないで)


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