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愛情たっぷりショコラショー



 たった今出来上がったばかりのシチューの味見をしてから、コンロのスイッチを切る。次に作る物に取り掛かるべく、シチューの鍋を移動させたところでガチャリとドアの開く音が聞こえた。それで彼女が帰って来たとわかったので、きちんと火の元を確認してから彼女の元へと向かった。もちろん、大好きな彼女をお出迎えするために。

「おかえりなさ〜い! 今日もお疲れ様っす!」
「……ん、ただいま」

 かろうじて「ただいま」と返してくれたけれど、その声はいつもより元気がない。顔にも疲労の色が滲んで見えて、疲れていることが窺えた。

「今ご飯の準備してるんで、君は少し休んでてください」
「え、でも……」
「でももだってもないっすよ! ほーら、こっち来て」

 疲れているのに夕食の準備を手伝おうとしてくれるなまえちゃんの手を掴んで、半ば強引にソファへと連れて行く。
 手伝おうとしてくれたその気持ちは嬉しい。料理は一人でするのも好きだけど、好きな人と作るのも楽しくて好きだから。でもそれは、どっと疲れて帰って来た彼女とすることじゃない。

「はい、なまえちゃんは大人しくここに座ってて。ご飯が出来るまでいい子で待ってるんすよ〜?」
「……子供じゃないんだから、ちゃんと待てるよ」
「なはは、それもそうっすね」

 むっと頬を膨らませながらそう言った彼女を見て、ちょっとだけ安心した。本当に疲れた顔をしていたから心配だったけれど、素直に感情を表に出してくれたから、少しは気が緩んだのだろう。

(さて。今日のメインはシチューで、もう出来てる。あとは、普通にシチューを食べるだけじゃ足りないんで、僕が食べる用にそれをアレンジしたドリアと……あ、オムレツでも作るっすかね〜)

 本日の夕食、もといほぼほぼ僕の夕食を脳内で組み立ながら、テキパキと手を動かしていく。耐熱皿にケチャップなどで下味をつけたご飯を敷き詰めて、上からシチューをかける。更にその上からチーズをかけて、それをオーブンで焼くだけであら不思議、これでドリアの完成。カレーの時にも応用できるし、余ってしまった時なんかに便利なアレンジレシピだ。
 耐熱皿をオーブンに入れて焼いている間に、ちゃちゃっとオムレツを作ってしまってもいいのだけど。ご飯が出来るまでの間、お疲れの愛しい彼女をそのまま放っておくほど、僕は薄情ではない。

「えーっと、確かこのあたりに…………あ、あった」

 記憶を辿りながら、僕の非常食という名のお菓子やらカップ麺やらを入れている戸棚を物色し、お目当ての物を取り出す。僕が探していた物、それは板チョコだ。これを使って少しでもなまえちゃんの疲れが癒えるように、ショコラショーを作ろう。
 発掘した板チョコを包丁で細かく刻み、小鍋で温めた牛乳の中へと少しずつ入れて、ゆっくり溶かしていけばショコラショーの出来上がり。それを彼女専用のマグカップに注ぎ入れて、僕に言われた通り大人しくいい子で待っているなまえちゃんの元へ向かった。

「はいこれ。良かったらどうぞっす」
「あ、ありがとう。これは……?」
「疲れた時には甘い物ってことで、僕の特製ショコラショーっす。愛情もたっぷり込めたんで、美味しいっすよ〜♪」

 ちゃっかり自分の分のショコラショーも用意していたので、自分用のマグカップを片手にソファに腰を下ろす。まだほこほこと湯気が立つカップに口をつければ、優しい甘さがふわりと広がった。

「……おいしい」

 ちらりと隣に視線を向ければ、ショコラショーを飲んでふっと表情が柔らかくなった彼女が視界に入る。少しでも癒されたらいいなと思って作ったけれど、効果があったみたいでよかった。

「ニキくん、ありがとう」
「どういたしまして」

 さっき帰って来た時と比べればなまえちゃんの表情は柔らかくなっているけれど、このショコラショーは気休め程度でしかない。僕にはわかんない感覚だけど、心が疲れている時は食事を楽しむ事も出来ないと聞いたことがある。今の彼女ももしかしたら、ご飯を楽しむ余裕なんてないかもしれない。

「ご飯なんすけど、もうちょっと後になってもいいっすかね?」
「私は大丈夫だけど、ニキくんは? お腹空いてるんじゃ……」
「君が帰って来る前にお菓子食べてたし、今ショコラショーも飲んだんで、ちょっとくらいなら大丈夫っすよ〜」

 まぁ大丈夫とは言っても、そんなに長い時間は持たないだろう。でも、いざとなればそろそろ焼き上がっているはずのドリアがあるし、それを食べながら夕食の準備をしたっていい。だから今は、少しでもいいからなまえちゃんの心を楽にしてあげたい。
 既に飲み終えて空になったマグカップをテーブルに置き、隣に座っている彼女との距離を詰めた。華奢な肩に腕を回し、空いている方の左手でなまえちゃんの頭を優しく撫でてあげる。

「今日もたくさん頑張って、なまえちゃんは超偉いっす。いいこ、いいこ」
「……っ、だめ。泣いちゃいそう、だから」
「ここには僕しかいないんだから、泣いたって大丈夫っすよ。僕がちゃあんと受け止めてあげる」

 頭を撫でていた手を止めて、彼女の手からそっとマグカップを奪う。それをテーブルに置いてから、今にも泣き出しそうな小さな体をぎゅうっと抱き締める。とんとんとあやすように優しく背中を叩いてあげれば、なまえちゃんの肩が小さく震えた。
 いっぱい泣いて、落ち着いたらご飯にしよう。それまではこうして、なまえちゃんをぎゅっと抱き締めたままでいるから。本当に、今日もお疲れ様っす。心が元気になったら、大好きな君の笑顔をまた見せてね。

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