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君との時間にアイスを添えて



 ぱたぱたという足音とドアの開く音が聞こえて、そちらに視線を向ける。すると、風呂から上がったらしいなまえの姿が視界に入ってきた。

「お待たせ、ジュンくん。先に入らせてくれてありがとう」
「そのくらい気にしなくていいっすよぉ〜。……あぁ、そうだ。ちょっとこっちに来てもらえます?」

 手招きをすれば、彼女は不思議そうに首を傾げながらもこちらへやって来る。風呂上がりだからだろうか、なまえがいつも使っているシャンプーの香りがふわりと鼻腔をくすぐった。風呂上がりでいい匂いがする且つ、パジャマ姿というオレしか見られない無防備な格好に、ふつりと湧いた欲が顔を出す。だけど今はそれを堪えて、冷凍庫を開けて例の物を取り出した。

「これ、よかったら食いません?」
「そ、それは……わたしが気になってた期間限定のアイス……!」
「二種類とも買って来たんで、シェアしましょうか。そうすれば両方食えますし」
「します! ジュンくんありがとう!」

 彼女がこのアイスが気になっていたことは、もちろん知っていた。以前テレビでこのアイスのCMが流れた時に、美味しそう……と呟いていたのを覚えていたのだ。
 別に買って来て欲しいと頼まれていたわけではないけれど、喜ぶ顔が見たかったから。お願いされてもいないのに買ってきた理由は、それだけで十分だろう。実際、なまえはすげぇ喜んでくれたわけだし。

「お風呂上がりに食べたかったアイスが食べられるなんて……贅沢だなぁ……」
「あー、わかります。風呂上がりのアイスってやけに美味いんすよねぇ〜」
「本当にねぇ……って、待って。ジュンくん、まだお風呂入ってないよね? 今食べちゃってもいいの?」
「まぁ、もう冷凍庫から出しちまいましたし。食ってから入りますよ」

 アイスを冷凍庫から出してしまったのなら、もう一度仕舞えばいいだけなのだが。あんなに嬉しそうにしていた彼女にお預けさせるのは気が引ける。先に食べていていい、何なら二つ食べてしまってもいいと言っても、たぶんなまえは「ジュンくんと一緒に食べたいから」と待っていてくれるだろう。それがわかっているから、わざわざ彼女を待たせてまで風呂に入ってきちまおうとは思わなかった。

「そう? ジュンくんがいいなら、いいんだけど……」
「そんなことよりほら、早くしないと溶けちまいますよぉ」
「確かに! 急いでスプーン用意するから、ジュンくんは先にソファに座ってて」

 そう言ってスプーンを取りに食器棚へ向かった背中を見送って、オレもキッチンを後にした。アイスに体温が伝わって溶けてしまわないよう、カップに触れる面積が少なくなるように持ち運び、ソファへ腰を下ろす。すると間もなく二本のスプーンを手に持った彼女もやって来て、オレの隣に腰を下ろした。

「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」

 差し出されたスプーンを受け取りながら、先に食べたい方の味を選んでいいっすよ、と言葉を続ける。
 なまえが気になっていた期間限定のアイスの味は二種類。濃厚なチョコレートと、甘酸っぱい苺。どちらも買ったのは彼女に喜んでもらいたかったというのもあるが、オレも苺はちょっと食いてぇな……と思ったからでもあった。

「じゃあ、チョコにしようかな。半分食べたら交換でいい?」
「はい。そんじゃ、オレは苺から食いますね」

 それぞれカップを手に取って蓋を開ける。スプーンで一口分を掬い口に含めば、苺の香りがすっと鼻から抜けていった。アイスにはたっぷりと果肉が練り込まれているからか、甘さだけでなく苺特有の酸っぱさも感じて、美味い。

「ん〜! 幸せの味がする……美味しい……」

 ちらりと隣へ視線を向ければ、アイスを味わっているなまえはなんとも幸せそうな顔をしていた。いつも思うことだけど、彼女は美味しそうに物を食べる。それが好きな物や食べたがっていた物だと、尚更。

(……かわいい)

 ふっと自然と口角が上がっているのを感じながら、再びスプーンでアイスを掬って口へ運んだ。
 食べていたそれが半分より少し多めに残っているあたりで、カップを隣の彼女へと差し出す。ありがとうと受け取ったなまえは、こっちも美味しいよとさっきまで自らが食べていたアイスのカップを差し出した。

「ん? これ、半分より多くないっすか?」
「それを言うならこっちもだよ。半分より多くない?」

 彼女から受け取ったチョコレート味のアイスは、半分よりも少し多く残されていて。まさか彼女も同じことをするなんて思っていなかったけれど、どうやらお互いに考えることは同じだったらしい。

「その苺すげぇ美味かったんで、ちょっと多めに残せばその分なまえが食えるかなって、思ったんですけど……」
「わたしも、そのチョコアイスすごい美味しかったから、ちょっと多めに残してジュンくんにって思って……」

 同じことを考えていたんだねと、ふたりで笑い合う。それから交換したアイスを食べて、こっちも美味いなんて感想を言い合って。何気ない日常の、何気ないちょっとした幸せで、優しい時間が流れていく。甘くて美味しいアイスと共に。

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