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ご褒美フルーツタルト



 ガチャリとドアの開く音がして、いつの間にか微睡んでいた意識が浮上する。衝動のままにふぁ〜とあくびをしていると、ただいまーと帰って来たらしい彼女の声が聞こえた。

「やっと帰って来た。おかえり〜」

 確か晩ご飯の買い出しに行って来るねと、近所のスーパーへ出掛けて行ったはずなんだけど。彼女の手にはスーパーで買って来ただろう食材が入っているエコバッグとは別に、何故か手提げケーキ箱が。どうやら寄り道をしてきたらしい。

「ねぇ凛月くん、よければちょっとお茶しない?」
「俺の分のケーキもあるならいいよ〜」
「もちろん! ちゃんと凛月くんの分もあるよ」

 ケーキを食べるのが楽しみなのか、なまえはふふんふ〜ん♪ と上機嫌に鼻歌を歌いながら、買って来た食材を冷蔵庫へ仕舞っていた。そんな様子を眺めながら、そういえばエッちゃんに貰った紅茶があったことを思い出す。
 はーくんがブレンドしてくれたハーブティーもまだ残っているけれど、ケーキと一緒に楽しむなら紅茶の方がいいだろう。それに、当たり前だけど飲んだら無くなってしまうし、はーくんが手ずからブレンドしてくれたハーブティーを消費するのは勿体ない。本人にそれを言ったら飲んでください! って言われちゃいそうだけど、彼女もきっと同意してくれるはず。前に特別に分けてあげた時も、飲んじゃうのが勿体ないなぁと言っていたし。

「紅茶淹れるなら、そのへんに仕舞ってあるやつ使っていいよ〜。高そうなやつね」
「はーい……って、ちょっと待って。高そうなってことは、高いやつってことなのでは……?」
「貰い物だし、俺も値段はわかんないなぁ」
「えっ、しかも貰い物だったの!?」

 素直にエッちゃんから貰ったと言えば、それは絶対に高いやつだ……と頭を抱えられてしまった。本人がいいよって言うから貰ったんだし、気にせず淹れちゃえばいいのに。

「まぁまぁ。なまえが気に入ったなら、またエッちゃんに可愛くおねだりしてくるから……♪」
「怖すぎるから絶対にやめて」

 でも今回は有り難く頂くとしようかな……。そう言葉を続けた彼女がお茶を準備をしている姿を、俺はのんびりとソファから眺める。普通なら手伝ってと言われそうなものだけど、それを言わないあたりなまえはなかなか俺に甘い。

「そういえば、なんで急にケーキなんて買って来たの? 今日はあんたも俺も誕生日じゃないし、記念日でもないよねぇ」

 なまえの誕生日も付き合い始めた記念日もちゃんと覚えているから、今日が違うことくらいすぐにわかる。思わずケーキを買っちゃうくらい、何かおめでたいことでもあったのだろうか。まぁ、単にケーキが食べたかっただけという可能性もあるけれど。

「実は、少し前に近くにできたケーキ屋さんが気になってたんだけど、なんとなく買いに行くタイミングを逃しちゃってて。今日は凛月くんも休みだから家にいるし、ちょうどいいかもって思って買って来たんだ」

 お互いいつも仕事を頑張っているんだし、たまにはご褒美にケーキを食べたっていいでしょ?
 そう言った彼女はお茶の準備が終わったらしく、ケーキやティーポットなどを載せたトレーを両手にこちらへやって来る。

「ご褒美、ね。うん、いいんじゃない」
「ふふ、でしょ? はい、凛月くんの分。確か好きだったなと思って、チョコレートケーキにしたんだけど……」

 ことんと目の前に置かれたお皿には、美味しそうなチョコレートケーキがちょこんと鎮座している。なまえはフルーツタルトを選んだようで、色鮮やかなフルーツが明かりに反射してキラキラして見えた。

「……俺がチョコレートケーキ好きだって、覚えてたんだ」
「好きな人のことだからね。覚えてるに決まってるよ」

 それがさも当然のように言った彼女は、いただきますとフォークを手に取って、フルーツタルトを食べ始めた。とても美味しかったみたいで、ふにゃりと顔が緩んでいる。そんな間の抜けた表情も可愛いなと思いながら、俺もチョコレートケーキを味わうべくフォークを手に取った。

「凛月くん」
「ん〜?」
「一口あげる。あーん」

 すっとこちらに向けられたフォークを、特に抵抗することなく口を開けて迎え入れる。サクサクとしたタルト生地の食感とバターの香り、濃厚なのに重すぎないカスタード、甘酸っぱい苺にオレンジ。それらが咀嚼する度に混ざり合って、絶妙なハーモニーを奏でていた。うん、美味しい。

「じゃあ俺も、お返しにあげないとねぇ」

 フォークでチョコレートケーキを一口サイズに分けて、それを彼女の口元へと運んだ。ぱくりと口を開けて受け入れたなまえは、幸せそうな顔でもぐもぐと咀嚼している。このチョコレートケーキもフルーツタルトに負けず劣らず美味しかったから、そういう表情になるのもわからなくはないけれど。

「他のケーキも気になるし、またご褒美に買いに行こう」
「でも、そんなに頻繁に買ってたら太るんじゃない?」
「うっ」

 どうやらカロリーは気になるらしく、彼女はタルトを食べる手をぴたりと止めて軽く呻いた。
 気になるなら、摂取した分のカロリーをどこかで消費すればいいだけ。俺はご褒美がケーキだけだとちょっと足りないかなぁって思っていたし、なまえも食べた分のカロリーが気になるみたいだから、ちょうどいいだろう。

「ご褒美がケーキだけなのはちょっと物足りないからさ、なまえもちょうだい?」
「えっ? いや、それは……」
「ね、いいでしょ?」

 甘えるようにねだれば、あんたは折れるって知っているから。逃がすつもりなんてない。だから今夜、俺にご褒美ちょうだいね。

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