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ときめきチーズケーキ



 バッグからキーケースを取り出して、家の鍵を鍵穴に差し込みくるりと回転させる。ガチャンと解錠する音が聞こえたのを確認してから、玄関のドアを開けた。既に彼女は帰って来ていたらしく、玄関の隅の方でちょこんと揃えられたパンプスが見える。それに倣うように、自分の脱いだ靴をきちんと揃えてからリビングへと向かった。

「ただいま帰ったよ!」
「おかえり〜!」

 ソファに腰掛けてテレビを見ていたらしいなまえの視線が、僕が帰って来たことによりこちらに向く。なんてことないことだけれど、彼女の意識が僕に向けられるのは嬉しい。
 聞いたところによると、カップルには付き合い始めた頃のようにドキドキしたりしなくなる時期がやって来るんだとか。どうやら倦怠期というらしく、恋人ができたんだと報告をした時、藍良に「ヒロくんも倦怠期には気を付けるんだよォ!」と言われたっけ。僕はなまえと一緒だと安心するのにドキドキするし、その心配はなさそうだと思っている。彼女も照れている顔や恥ずかしがっている顔などを見せてくれるし、恋人のそういう表情が見られているということは、きっと大丈夫だろう。

「そういえば一彩くん、それどうしたの?」
「あぁ。これはね、君へのお土産なんだ」

 僕が手に持っていた紙袋を指差したなまえに、思考を切り替えてそれを差し出す。お土産と聞いて嬉しそうに笑う彼女が、ありがとうと紙袋を受け取った。

「開けてもいい?」
「もちろんだよ!」

 なまえは僕が頷いたのを確認してから紙袋の中に手を入れて、入っていたケーキ箱を取り出した。そして空になった紙袋を一旦横に避けて、今度は箱を開けていく。その中身を見た瞬間、再び彼女の視線がこちらに向いた。

「チーズケーキだ! 美味しそう……!」
「喜んでもらえてよかったよ! 今日は仕事の間の時間が少し出来てしまってね、何をして時間を潰そうか悩んでいたら、藍良が良さそうなカフェがあるから行ってみようって誘ってくれたんだ。そのカフェで食べたケーキがすごく美味しくて、なまえにも食べさせてあげたいなと思って、テイクアウト……? というのをしてみたんだ」
「そうだったんだ……ありがとう、すごく嬉しい!」

 さっそく食べようと嬉々としてソファから立ち上がったなまえは、準備をする為だろう、キッチンへと向かって行った。僕も手伝おうとその背中を追うようにしてキッチンに向かう。

「僕も手伝うよ。何をすればいいかな?」
「じゃあ、お皿とフォークを用意してもらっていい? わたしはコーヒー入れるから」
「ウム、わかった」

 指示された通り、食器棚からチーズケーキを載せられるサイズのお皿とフォークを取り出す。用意が終わると、ケーキをお皿に移しておいて欲しいとお願いされたので、チーズケーキをお皿に移した。全ての工程が終わる頃には彼女の方も準備が終わったようで、ふわふわとコーヒーの香りが漂ってきた。
 ケーキが載ったお皿とフォーク、コーヒーが入ったマグカップをふたりで運び、それらをテーブルの上に置いてからソファに腰を下ろす。

「よし、じゃあ食べようか」
「ウム。頂くとしよう!」

 いただきますときちんと挨拶をしてから、フォークを手に取った。そのまま食べようとしたけれど、なまえの反応が気になってちらりと隣を見る。すると一口サイズに分けたケーキを口に運ぶところだったので、ついそのままじっと見つめてしまった。

「んー! おいしい!」

 とても幸せそうな表情で味わっているから、その言葉には嘘偽りないことがわかる。
 あまりにじっと見つめてしまっていたからか、僕の視線に気付いたらしい彼女の意識が、チーズケーキからこちらに向いた。さっきまでケーキが映っていたその瞳に、今は僕が映っている。

「一彩くん、食べないの?」
「いや、食べるよ。なまえとチーズケーキを食べるのがとても楽しみだったからね」

 藍良とカフェに入った時は違うケーキを食べたし、単にチーズケーキを食べるのが楽しみだったというのもあるけれど。愛しいと思う人と美味しい物を食べるのは、友と一緒に食べるのとは違った良さがあって、僕は好きだった。より一層美味しく感じるのはどちらも同じなのに、上手く言葉にはできない何かが違って。

「……少しじっとしていてもらえるかな」
「え? うん、わか……っ!?」

 柔らかな唇に自分のそれを重ねると、今彼女が食べたばかりのチーズケーキの味がした。そっと唇を離して元の距離感に戻れば、まさかキスをされると思っていなかったのか、なまえの頬がみるみる赤く染まっていく。

「ひ、一彩くん!」
「ごめんね。なまえとキスがしたいなと思ったら、つい」
「せめて食べ終わってから……!」
「フム。食べ終わったらまたしてもいいんだね?」

 わかったよと頷けば、彼女はふいっと顔を逸らしてぱくぱくと再びチーズケーキを食べ始めた。照れているなまえも可愛らしくて、自然と笑みを浮かべてしまう。
 今度こそ僕も食べようと口に含んだチーズケーキは、すごく美味しかった。きっと、とても愛おしいと思う人と食べているから余計にそう感じたのだろう。

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