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君とだから恋になる



 目覚めたら夢から覚めるように、俺と彼女の関係も終わりが近づいていた。楽しかった夢から目を覚まして、現実へ戻らなきゃいけない。たとえ嫌だったとしても、そういう約束だったんだから。
 俺となまえが付き合い始めたのは、今からちょうど半年前のこと。好きだった人に振られてしまった彼女に、お試しでいいから付き合ってほしいとお願いしたことから始まった。そう、俺は傷心のなまえにつけ込んだのだ。今思い返してみても、あの時の俺は卑怯でずるかったと思う。でも、見ていられなかったんだ。悲しみを隠して無理に笑っている、好きな子の姿なんて。

「……あ、あのさ」
「うん」
「あー、その…………いや、やっぱ何でもない」
「そう? それならいいんだけど……」

 言わなきゃと思えば思うほど、それは上手く言葉にならなくて言い淀む。なんて、ただ自分が言いたくないだけなのに。
 お試しで付き合うことを了承してくれたなまえから出された条件は一つだけだった。お試しで付き合う期間は半年間。たったそれだけ。その時の俺は半年だけでも彼女と一緒に過ごせるなら、恋人になれるならいいと思っていた。でも、今は。

(終わりになんてしたくない。これからもずっと、なまえの隣に居たい)

 お試しとはいえ恋人として過ごすようになったこの半年で、前よりもっと好きになってしまった気がする。大好きで、大切で、これからも俺の隣に居てほしい。その声で俺の名前を呼んで、笑顔を向けてほしくて。
 だけど、この関係はお試しで付き合っているから成立しているだけだ。言わば偽りのようなもの。どんなに好きだったとしても、俺は本当の彼氏にはなれない。

「……やっぱり、ちょっと話があるんだけど。いいか?」
「え? うん。それで、話って?」
「そろそろ付き合い始めて半年経つだろ? だから……終わりにしなきゃな、って思ってさ」

 胸の痛みには気付かないふりをして、さっきは言えなかったそれを口にした。彼女は俺が言うまで気付いていなかったらしく、もう半年が経つことに今気が付いたようだった。

「そっか。もう半年、なんだ」
「気付いてなかったのかよ。ちょうど、今日で半年かな」

 お試しの期限が切れようとしていることは伝えた。あとはもう、彼女を解放してあげるだけだ。今までありがとな、この半年すっげー楽しかったよって、感謝を伝えて。そうしたら、元の関係に戻るから。

「その、今までありがとな。俺から言い出しといてあれだけど、お試しでも付き合ってもらえるとは思ってなかったから、めちゃくちゃ嬉しかったよ」
「ま、待って」
「この半年、すっげー楽しかった。明日から恋人じゃなくなるけど、今度は友達として、またどっかに遊びに行けたらいいよな〜、なんて……」
「っ、勝手に、終わらせないで……!」

 俺を真っ直ぐに見つめるなまえの瞳は潤んでいて、今にも涙がこぼれてしまいそうだった。まさかそんな表情をしているとは思わず戸惑う。なんで、おまえが泣きそうな顔してるんだよ。どっちかっていうと泣きたいのは俺の方なんだけど。

「いや、だってそういう約束だっただろ? それに、おまえはまだあいつを……」
「……確かに、半年だけって約束だったし、わたしも最初はそのつもりだったよ」

 でも真緒くんはいつも優しくて、失恋したばかりで落ち込んでいるわたしを気遣ってくれて。何より大切にしてくれた。それがすごく嬉しくて、一緒に過ごすうちに好きになってたの。
 彼女の口から告げられた想いは、とてもじゃないが信じられない。俺のことが好き、とか。いくら何でも都合が良すぎる。別れたくなくて俺が作り出した幻の方がまだ現実味があるかもしれない。うん、だいぶテンパってるな、俺。

「まだあの人のことが好きなんだって、そう思われても仕方ないと思う。だから、信じてもらえるまで何度だって言うよ。今わたしが好きなのは、真緒くんなんだって」
「……都合のいい夢だったりするか? これ」
「夢じゃないよ、ちゃんと現実だよ」

 だから夢じゃないって確かめてみて。そう言葉を続けたなまえが、ぎゅっと俺に抱き着いてきた。その華奢な体を抱き締め返すと、柔らかな感触が服の布越しに伝わってくる。体温やドクドクと早鐘を打つ鼓動までも。それらはやけにリアルで、彼女の言うように夢でも幻でもなく現実なのだろう。そうであってくれないと困る。

「俺のこと、好き?」
「すき、だよ。真緒くんが、好き」
「……俺も、なまえが好き。大好きだ」

 気持ちを確かめ合うように、どちらかともなく唇を重ねた。それは、お試しで付き合っていたこの半年間はしなかったこと。つまり、本当に恋人になれたという証拠でもあるわけで。
 もう離してなんかやらないと言わんばかりに、彼女を抱き締めている腕の力を少しだけ強くした。苦しくないように、だけど離れないように、そんな強さで。



『Words Palette Select me.』より
7.すべて盗まれた(まだアイツを、言い淀む、何度だって)


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