あんスタ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

スイートメロウナイト



 リビングへ続くドアをガチャリと開けると、私が帰って来たことに気付いたらしい彼がこちらを振り返った。ソファの背もたれにだらりと体を預け、おかえり〜とひらひら手を振っている凛月くんを見ていると、なんだか気が抜けてしまう。

「ただいまー」
「随分疲れた顔してるねぇ」
「そりゃ疲れてるからね……」

 出来ることなら、もうこのままベッドに転がって寝たいくらいなのだけど。メイクは落とさないといけないし、お風呂にも入らないといけないし、ご飯だって食べないといけないし、その他諸々の家事もしなければならない。いっそ全部自動でやってくれる画期的な機械とか欲しいなと思うのは、きっと疲れているせいだろう。

「凛月くん、ご飯はもう食べた?」
「ううん、まだだよ」
「そっか。じゃあちょっと待ってて、適当に何か作るから」

 今日はスーパーに寄るのを忘れて帰って来てしまったけれど、何か適当に作れるくらいの材料は冷蔵庫にあるはず。そう思ってキッチンに向かおうとした私の腕を、彼の手が掴んだ。

「その必要はないよ。俺がちゃ〜んと用意しておいたから……♪」
「え、凛月くんが!?」
「簡単な物だけどねぇ。スープとサラダと、あとはパスタを茹でればすぐに食べられるよ〜。レシピはセッちゃんに聞いたから、たぶん美味しいんじゃないかなぁ」

 お菓子作りが得意なのは知っていたけれど、まさか料理もできるとは。しかも、わざわざ瀬名くんにレシピを聞いて作ってくれたなんて。だけど正直、今日はご飯を作る元気すらなかったのですごく有り難い。今度凛月くんと、それから彼経由で瀬名くんにもお礼をしなければ。

「だから、ね。今日はもう、頑張らなくていいんだよ」

 おいでと掴まれた手はそのままに、さっきまで凛月くんが座っていたソファへと導かれる。それに腰を下ろした彼に引き寄せられるようにして、私もぽすんとソファに身を預けた。

「よく頑張ったね〜。よし、よし♪」

 彼に掴まれていた手が解放されたと思ったら、今度はその手が私の頭を優しく撫でる。大事な物を扱うかのように、その手つきはどこまでも丁寧で優しかった。心の柔らかいところまでもを撫でられているようで、泣くつもりなんてなかったのにじわりと視界が滲む。

「いつもは甘やかしてもらってるし、今日は俺がなまえのことを甘やかしてあげよう」

 好きなだけ俺に甘えていいからねぇ。ぎゅうっと抱き締められて囁かれたそれは、砂糖みたいに甘く私の耳をくすぐった。
 普段は甘えられることが多いけれど、凛月くんは案外目敏く私のちょっとした変化に気付き、必要があれば今みたいに甘やかしてくれる。そういうところが、ずるい。

「……もう少しだけ、ぎゅってしててほしい」
「ふふ、いいよ〜」

 甘やかしてもらったら、私もこのあとの夕ご飯の準備を手伝うから。だからもうちょっとだけ、今はこのままで。

[ back to top ]