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ミッドナイト・シュガー



 音を立てないよう気をつけながら、寝室のドアをそっと開ける。彼女はもう眠っていたようで、常夜灯のオレンジ色が優しく部屋を照らしていた。そんな薄明かりの寝室に足を踏み入れて、なまえが眠っているベッドへ歩み寄る。

「気持ち良さそうに寝てますねぇ」

 あどけない寝顔を横目にベッドの端に腰を下ろす。すると彼女が身じろいで、ごろんとこちらに寝返りを打った。その拍子に顔にかかってしまったであろう髪を軽く指で払う。そしてそのまま、ふつりと湧き上がった欲のままに、柔らかそうな頬に触れる。だけどそれだけじゃ物足りなく感じて、するりと手を離した代わりに唇を寄せた。

「……ん、ん……?」
「あ。やべぇ」

 起こさないよう静かに部屋に入り、なるべく物音を立てないように気をつけていたというのに。結局、彼女を起こしてしまった。
 まつ毛がふるりと震えて、閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上げられた。まだ半分眠っているのかぽやぽやしているなまえの瞳に、オレが映り込む。

「すんません。起こすつもりは……っ!?」
「ふふ、ジュンくんだ」

 のろのろと起き上がった彼女が「おかえり〜」と抱きついてきた。その小さな体を受け止めて、ぎゅっと抱き締め返す。

「ジュンくんもねようよ」
「いや、オレまだ着替えてねぇし、風呂にも入ってないんすけど……?」
「そっかぁ」

 じゃあ早く着替えて、お風呂入らないとね。そう言葉を続けた割には、なまえがオレから離れる気配はない。

「あの〜?」
「うん」
「せめてシャワー浴びたいんですけど」
「……もうちょっと、だけ」

 背中に回された腕の力が、少しだけ強くなった。
 もうちょっとだけっすよぉ。起こしちまったのはオレだし、仕方ないと思いながら口にしたそれは、自分が思っているよりも甘さを含んでいて。シャワー浴びたいのは嘘じゃないのに、もう少しこのままでいられることを満更でもないと思っているオレがいた。



『Words Palette two live together』より
1.夜明け前のないしょ(薄明かり、柔らかそう、触れる)


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