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幸せを束ねたブーケ



 らしくない、かもしれない。だけど今日は彼女と付き合い始めた記念日で、喜んでくれたらいいなって思って。気が付いたら花屋に立ち寄り、花束を買っていた。

「あ。翠くん、おかえり」
「た、ただいま」

 ガチャリと玄関のドアを開けると、待っていてくれたのか彼女が笑顔で出迎えてくれた。もうすぐご飯できるからとキッチンへ向かおうとした背中に、待ってと声を掛ける。

「どうしたの?」
「その、これなんだけど……」

 背中で隠すように持っていた花束をなまえに差し出す。すると、目を見開いたあと嬉しそうに顔を綻ばせた彼女がそれを受け取ってくれた。その拍子にかさりとラッピングのセロファンが音を立てる。

「わ、素敵な花束……!」
「今日、記念日だから。なまえが喜んでくれるようなプレゼントにしたいなって思って、それで」
「そっかぁ……ありがとう、翠くん。とっても嬉しい!」
「喜んでもらえてよかった……」

 いつもありがとうと日頃の感謝を伝えれば、私の方こそいつもありがとう、と逆に感謝されてしまった。だけど、誰かと付き合うってそういうことなのかもしれない。お互いがお互いのことを思って、行動して。だから一緒に過ごせるし、感謝を伝えくたくなる、のかも。

「生けてあげないとすぐダメになっちゃうよね。花瓶の代わりになりそうな物、あったかな……」
「……ごめん。花瓶も買ってくるべきだったかも」
「ううん、謝らないで。花束もだけど、翠くんのその気持ちが嬉しかったから」

 花瓶は後日買いに行ってもいいしねと言葉を続けた彼女が、花束を胸に微笑んだ。

「渡しておいてあれなんだけど……花、俺が生けておこうか? 飯作ってるって言ってたし」
「本当? お願いしてもいい?」

 こくんと頷けば、じゃあお願いしますと花束を手渡される。ご飯を作りにキッチンへ戻る背中を見送りながら、花瓶の代わりになりそうな物、コップとかを求めて俺もリビングへ向かう。ドアを開けるとふわりと鼻腔をくすぐったのは、彼女が今まさに作ってくれているご飯の匂い。それは優しくて、幸せの匂いがした。



『Words Palette two live together』より
24.ありふれた奇跡の話(感謝、らしくない、幸せ)


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