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恋心キャラメリゼ



 彼女はよく、翠くんは何を考えているかわかりやすいよねと言って笑う。その時考えていることや感情が顔に出やすいのかもしれない。逆になまえさんは、何を考えているのか少しわかりにくい。俺よりも年が上で、大人だから悟りにくいのだろうか。だとしても、俺はかけらでもいいから彼女の感情を知りたいと、そう思ってしまう。好きな人のことは、もっともっと知りたい。

「うーん……お腹空いた、とか」
「残念、違います」
「今日も疲れたな、とかっすかね」
「あ、それはあるかなぁ」

 今日はちょっと仕事が大変で、と言う彼女の表情からは僅かだけど疲労の色が伺えた。普段はあまり顔に出ないから、きっと相当疲れているのだろう。

「お疲れさまです。あの、これよかったらどうぞ」
「これって……ぬいぐるみ?」

 なまえさんに手渡したのは、俺のお気に入りのゆるキャラのぬいぐるみ。抱き締めるのにちょうどいいサイズかつ、もちっとした生地で出来ていて手触りもいい。そして何より、この間抜けな顔が疲れた心を癒してくれるはず。俺はこの子でよく癒されているから、彼女も癒されてくれたらいいな。そう思って差し出した。

「借りちゃってもいいの?」
「はい。なまえさんになら全然大丈夫です」
「翠くんのお気に入りを借りるのは気が引けるけど……ここは素直に甘えさせてもらうね」

 ほどよい丸いフォルムをしたぬいぐるみが、彼女の両腕に抱えられた。その光景は可愛くて、正直癒しでしかない。癒されてもらおうと思って貸したのに、俺が癒されてどうするんだよ。そう思いながらなまえさんを見ると、その表情は少し柔らかくなっているような、そんな気がした。効果、あったのかな。

「ふふ、この子かわいい」
「わ、わかりますか!? このまるっとしたフォルムと、この間抜けな顔が最高で……!」
「確かに、ちょっと気の抜けた顔してるよね。抱き心地もいいし、これは癒されるなぁ……もふもふ……」

 ぽふりとぬいぐるみに顔を埋めた彼女の声音は柔らかくて、どうやらかなり効果があったらしい。だけど。

「……あの、なまえさん」

 華奢な肩に手を伸ばして、小さな体をこちらへ引き寄せる。すると、彼女の体はいとも簡単に俺の腕の中へ収まった。

「翠くん?」
「俺、あなたより年下だし、頼りないかもだけど……愚痴とかなら聞けますし、甘えてください」

 彼女はいつも俺を甘やかしてくれている。それが嬉しい半面、俺だってなまえさんを甘やかしたいのにと思っていた。だから、甘えるならそのぬいぐるみじゃなくて、俺にして。なんて、これは俺のわがままだ。

「……迷惑、じゃない?」
「そんなことあるわけないでしょ。遠慮しないでいいんすよ」

 そう言いながら抱き締めている腕に力を込めると、ありがとうと呟いた彼女が、ふっと力を抜いて俺に身を預けてくれたような気がして。ようやく甘えてくれたな、なんて思うのだった。



『甘々 文字書きワードパレット』より
8.チョコレート(かけら、声音、甘える)


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