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ペアリングに秘めた想い



 ガチャリとリビングへ続くドアを開けて彼女の姿を探す。ぺたぺたとフローリングを歩き進めば、椅子に座ったままテーブルに上に突っ伏して眠ってしまっているなまえさんを見つけた。

「やはりここに居ましたか。しかし、その体勢では辛そうですな」

 足に負担をかけるのはあまり良くないが、ここは仕方ない。余計な負担がかからないように気を付ければ大丈夫だろうと、彼女が座っている椅子を少し引いて、華奢な体をふわりと抱き上げる。想像していたよりも軽い小さな体を抱き抱えながら、ひとまずソファへと向かう。起こさないようにそっと横たえてやれば、なまえさんが少し身じろいだ。その際にしゃらりと首元で揺れたペンダント。そのトップになっているのは、いつか彼女へプレゼントしたペアリングだった。

「ふふ、何だか懐かしいですね。想い出の品、というやつでしょうか」

 彼女が息を吸って吐く度に、規則正しく上下するそれを見つめる。プレゼントしたものの、彼女はなかなか付けてはくれなくて。リングを付けてくれないのかと聞いたことも、失くしたら嫌だからと彼女が答えたのも、大切な想い出だ。

「俺が提案した通り、チェーンに通して身に付けてくださっているんですね」

 ペンダントにして付けているとなまえさんから聞いてはいたけれど、こうして実際に目にするとあたたかい気持ちが胸に広がる。嬉しくて、幸せで、どこかくすぐったい。この気持ちを形容するならば、それはきっと愛なのだろう。たまらなくなって彼女の髪にそっと触れた。柔らかいそれを撫でていると、落ち着くような、それでいて落ち着かないような矛盾した感覚を覚える。心臓が、早鐘を打つ。

「愛しています、なまえさん」

 甘いようでどこか苦しさを感じる胸を抑えて、眠る彼女の唇に口づけを落とす。あなたも俺で頭がいっぱいになって、振り回されてくれたらいいのに。なんて、邪な願いを抱きながら。

「んん……」

 ふるりと睫毛が揺れて、ゆっくりと瞼が開く。彼女の眠たげな瞳に、俺が映り込んでいるのが見えた。

「おや、起こしてしまいましたか」
「……たつみ、くん?」
「はい、おはようございます」
「っ、え? なん……っ」

 今の状況がよくわからないのか、なまえさんは勢いよく起き上がってきょろきょろとあたりを見渡す。

「私、テーブルでうたた寝してたんじゃ……?」
「ええ、してましたな。ですが、そのままだと体勢が辛いだろうと思いまして、俺が勝手にソファへ移動させました」
「えっ……お、重くなかった? 足は平気?」

 心配と不安を滲ませたなまえさんが俺の顔を覗き込む。大丈夫ですよと言葉を返せば、彼女はよかったとほっとしたように笑う。その拍子にまた、ペンダントが揺れた。首元で揺れるそれを見つめながら、次は指に嵌めてほしいと願ってしまう。
 あなただけに永遠の愛を誓います。だからどうか、次に指輪を贈った時は左手の薬指に嵌めてくださいね。



『甘々 文字書きワードパレット』より
10.ミルクレープ(撫でる、横たえる、想い出)


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