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無自覚ジェラシー



 僕となまえは友達だ。友達になろうという僕の言葉に彼女は笑顔で頷いてくれて、そこから僕らの友達関係が始まり、今に至る。言ってしまえば、それ以上でもそれ以下でもないのだ。それに僕はまだ、恋というものをよく知らない。つまり、そんな僕となまえが友達以上になるなんてことはありえないわけだ。あくまで現段階では、の話だが。

「フム。どうやら買い忘れはないようだね」

 当初自分が買う予定だったものと、買い出しに行くならついでに買って来てほしいと、同室の人達から頼まれたものが記されたメモを見て僕はひとり頷く。これなら寮に帰ったとしても、あれが足りないこれが足りないと言われることはないだろう。まぁ、その時はまた買いに行けばいいのだけど。しかし誰だって、二度手間になるのは避けたいもの。そうなる心配もなさそうだと、ビニール袋を握り直す。がさりという音に混じって、ふと聞き覚えのある声が聞こえたような気がした。

(気のせいかな。……いや、でも確かに聞こえる)

 空気が震わせて、そよ風に乗って、僕の耳に届けてくれる声。それは確かに彼女のものだった。意識を研ぎ澄ませ、その声が聞こえてくる方向を絞り込む。それがわかればあとは簡単だ。両足を動かしてその場所へと向かうだけ。彼女が、なまえが近くにいる。そんな偶然が嬉しくて、自然と足は軽い。だってそうだろう? 街を歩いていたら偶然友達と会えた、なんて嬉しいに決まっている。少なくとも、僕は。

「……あぁ、やっぱりいた」

 彼女の名前を呼ぼうとして、思いとどまる。どうやらなまえは一人ではなく、誰かと一緒に居て話をしているようだった。楽しそうに話しているので、おそらく相手の男は彼女の友達なのだろう。

「ウム。友達と仲がいいのはいいことだ!」

 そんな独り言を呟いて、くるりと踵を返し歩き出す。道草を食ってしまった分、早く帰らなければ。頼まれたものの中にはアイスというお菓子も含まれていたので、急がなければ溶けてしまうだろう。そう思い歩くスピードを少し速めた。
 友達と言えど、その人物のことを何でも知っているかと問われれば、答えは否だ。他人の深層心理なんてわからないし、知らない交友関係だってあるだろう。知っているようで、案外知らないことはたくさんある。頭ではそう理解しているのに、何故だろうか。胸のあたりがもやもやとして、まるでゆっくりと広がる黒い靄に侵食されていくような感覚を覚えるのは。これは、何だ。初めて味わう感覚に戸惑いながらふと見上げれば、視界に映ったのはオレンジ色の空だった。どこまでも綺麗なそれを見つめてもなお、黒い靄は僕を侵食していく。僕がこの感覚を『嫉妬』だと知るのは、まだ先の話。

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