ヒーローだって、オオカミだ。
いつまでも続けばいいのにと願ってしまう、ふわふわと心地いい夢うつつな時間。だけどそれは、けたたましいアラーム音によって呆気なく終わりを告げた。布団の中でもぞもぞと動きながら発信源であるスマホへ手を伸ばし、それに視線を向ける。
「…………これ、わたしのじゃない」
アラーム音を響かせていたのは、隣でぐうすか寝ている千秋くんのものだった。そういえば昨夜、明日の朝は早いんだと言っていたっけ。そんなことをぼんやり思い出しながら、うるさいのでアラーム音を止める。わたしの起床予定時刻まで余裕があるし、もう一度寝直したいところだけど。さすがに彼を放っておくわけにもいかないだろう。仕事、遅刻しちゃうし。
「千秋くん、千秋くんってば」
気持ち良さそうに眠っている体を揺さぶってみるものの、全く起きる気配がしない。仕方ないと布団をひっぺがし、再度彼の体を揺さぶった。
「…………ん、んん……?」
「あ、起きた? おはよう……」
早く起きないと遅れちゃうよ。その言葉は発せられることはなく、代わりに小さな悲鳴が漏れた。
眠たそうな目をした千秋くんは、むくりと起き上がったのはいいものの、何故かわたしをぎゅっと抱きしめたのだ。いきなり抱きしめられたらびっくりするし、悲鳴くらい漏れたって許されたい。
「あ、あの、千秋くん……!」
「……なまえは、あったかいな」
ふにゃりとした柔らかい声がわたしの耳をくすぐる。そのまま寝息が聞こえてきたので、どうやら千秋くんは再び眠ってしまったらしい。
「いい加減起きなさい!」
どんっと彼の体を突き飛ばせば、うわぁっと間抜けな声が部屋に響く。今度こそ目が覚めたらしい千秋くんが、申し訳なさそうにベッドの上に座り込んだ。
「す、すまん! 寝ぼけていたとはいえ、お前を……!」
「いや、それは別にいいんだけど……時間、平気?」
「ん? ……えっ、もうこんな時間なのか!?」
急がないと間に合わなくなる、と千秋くんが慌ただしく部屋を飛び出した。そんな後ろ姿を見送りながら、わたしはぼふりとベッドに倒れ込む。
「寝ぼけて抱きしめるのはずるくないですか……」
心臓はまだばくばくと悲鳴を上げていて、うるさい。早く落ち着けと願いながら目を閉じるけれど、鳴り始めたアラームがそれを許してはくれなかった。無情にも鳴り続けるスマホに手を伸ばして、アラームを止める。支度をしているうちに少しは鼓動が落ち着くといい。そう思いながら、わたしはのそりとベッドから起き上がるのだった。