あんスタ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

しあわせキャッチ



 淡いピンク色の花が咲き誇る、あまり人気のない川が流れる土手。そこにレジャーシートを広げて、私とつむぎは腰を下ろしていた。それぞれ膝の上にはお弁当を乗せながら。

「本当に綺麗ですね」

 食べかけのおにぎりを片手に、彼は空を見上げる。私もつられて視線を上げれば、そこには青空と桜のコントラストが広がっていた。ごくん、と咀嚼していた卵焼きを嚥下して、確かにすごく綺麗だと言葉を零す。

「あぁ、でも」
「?」
「桜の下には死体が埋まっている、なんてよく言いますよね」
「っ! そ、そうだね……」

 今、口の中に何も入ってなくてよかった。そう思いながら吹き出しそうになるのを堪えて、言葉を返す。それを言った当の本人はと言うと、本当だとしたら怖いですよね〜などと言いながらも、美味しそうにおにぎりを頬張っている。恐ろしいことを言ったあとだというのに、よく食べられるなぁ。そう思っていてもお腹は空腹を訴えてくるので、お弁当箱のタコさんウインナーへと箸を伸ばす。あ、このタコさんウインナーは上手く出来たやつだ。

「そういえばなまえさんは知ってますか? 桜の花びらのおまじないを」
「え、なにそれ」

 そう答えてから、箸で摘んでいたウインナーを口に放り込む。もぐもぐと咀嚼しながら隣に視線を移せば、にこやかに微笑むつむぎと目が合った。彼は既に食べ終わったらしいお弁当箱に蓋をして、何を思ったのかその場ですくっと立ち上がった。

「ふふっ。舞っている桜の花びらをキャッチできたら、いいことがあるんですよ〜♪」

 あっ、あそこに花びらが舞って、まで言いかけたつむぎはお約束のように足を滑らせ、派手に転んでいた。その拍子に、既に散っていた花びらがふわっと舞う。

「ちょっ……つむぎ、大丈夫?」

 食べかけのお弁当の蓋を閉めてランチトートにしまってから、レジャーシートに足を滑らせて転んだつむぎの腕をつんつん、とつつく。うう、と呻き声を上げながら起き上がった彼の青い髪には、桜の花びらがついていた。それも、そこそこの数が。

「くっ、ふ…………あははっ」
「え? えっ? ど、どうして笑うんですか!?」
「いや、だって……その頭、ふふっ」
「頭……?」

 不思議そうに首を傾げながら自らの髪に触れた彼は、花びらがついちゃったんですね、と苦笑い。これ以上笑うのは可哀想かなと思って、花びらを取ってあげるべくふわふわの髪に手を伸ばす。

「ちょっとじっとしてて」
「自分でできますよ?」
「いいからいいから」

 ふわふわの髪についた花びらを一枚、また一枚と取り除いていく。取った花びらは左手に握っていたけれど、ぱっと開くと瞬く間に風に攫われて行った。そしてまた、散った花びらがひらりひらりと舞う。

「……あ」
「わぁ……!」

 そのうちの一枚が、私の手のひらの上にふわりと着地した。それを見たつむぎは、桜の花びらが手のひらに落ちてくるなんてすごい、とまるで自分のことのように喜んでいる。
 確か、舞っている桜の花びらをキャッチできたらいいことがある、だったっけ。これは別にキャッチしたわけじゃなくて、ただの偶然なのだけど。つむぎがあんまりにも嬉しそうに笑うものだから、確かにおまじないの効果はあったのかもしれない。その笑顔が見られたことが、私にとってはいいことだから。

[ back to top ]