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持て余した熱の行方は



 今もまだ、胸が震えている。もうライブ会場を後にしたというのに、私はまだ興奮を覚えていた。やはり友也くんがあれだけ熱く語っていただけあって、『Trickster』のライブは本当に素晴らしかった。また観たいと、そう思うほどに。

「はぁ……北斗先輩、ほんっとに最高だったなぁ」

 そう呟いた彼は、どうやら私よりも興奮冷めやらぬ状態のようだった。どうしても行きたいんだと誘ってきたのは友也くんだったし、仕方ないか。

「友也くんの好きな北斗先輩って、あの黒髪の人だよね? クールな感じの」
「そうそう! って、なまえよくわかったな?」
「まぁ、いつも聞いてるからね」

 彼の所属しているユニット『Ra*bits』の話もよく聞くけれど、それと同じか、それ以上に話に出てくるのが北斗先輩という人だ。話を聞いていて、尊敬している大好きな先輩なんだろうなということは伝わってくるのだけど、度々「抱かれたい」と言い出すものだから、恋人ながら大丈夫だろうかと思ってしまう。私はアイドルに疎いのでよくわからないけれど、アイドル好きな人ってみんなこうなのだろうか。わからない。

「北斗先輩、抱いて……」
「…………」

 ほぅ、と息を吐いて恍惚とした表情でそう呟いた彼を一瞥して、いつものことだなと気にせずに歩みを進める。

「あ、ちょっ、先に行くなよ」
「友也くんの北斗先輩への愛はわかっているけど、あんまり遅いと置いて行くよ」
「いや、俺の北斗先輩への思いはこんなもんじゃない。北斗先輩は━━」
「………………」

 北斗先輩が素敵で魅力的な人だということは、彼の話を聞く限りでもわかっていたし、今日実際にライブを見てそう思った。友也くんが好きになるのもわかるなぁって、確かにそう思ったけれど。

「って、なまえ、真顔になってる!? え、もしかして俺、引かれてるか……!?」
「引いてないよ、大丈夫」
「引いてないって顔じゃないけどな!?」
「確かに北斗先輩はかっこよかったし、素敵だなぁって思ったけど……私が好きなのは友也くんなので」

 北斗先輩ばかり見ているのはちょっとだけ面白くないけれど、まぁ、そんなところも含めて好きだから。私の言葉を聞いて狼狽している彼を置いて、帰路を歩き進めて行く。心臓の音がやけにうるさく聞こえるのは、たぶんライブの興奮が、熱が冷めないからじゃない。大好きな先輩ばかり見ている彼のせい、だ。

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