完熟ストロベリー
淡い薄紅色の花が咲き誇る、あたたかな春。そして、この季節になると決まって出回るフルーツの一つ、苺。真紅に輝く甘酸っぱいその果実は、彼とわたしの好物でもある。
「う〜ん……」
「……はぁ。あんた、いつまでそうしてるつもりです?」
「う、だって……」
仕方ないっすねぇ。聞こえてきた呆れ声に、思わず広げていたメニューから顔を上げた。すると案の定、目の前に座っているジュンくんは呆れた表情でわたしを見つめていた。
苺のパフェ、パンケーキ、ミルクレープにシフォンケーキ。他にも苺を使った美味しそうなスイーツがたくさん載っていて、どれを頼もうか迷ってしまう。あんまり彼を待たせるのも申し訳ないし、長時間悩んでいるのはお店の人にも悪いから早く決めたいのに。そう思っていてもなかなか決められないのは、優柔不断の痛いところだ。
「…………よし、これにする」
「やっぱり変えるとか言わないでくださいよぉ。あ、すみません」
近くを通りかかった店員さんを呼び止めた彼は自分の食べたいものと、ついでにわたしが「これにする」と指差していたメニューを注文してくれた。少々お待ちくださいませ、と店員さんが厨房へ消えていく。
「あの、ジュンくん」
「何すか」
「注文してくれてありがとう。待たせちゃってごめんね」
普段ならもう少し悩まずに決められるのだけど、今回は悩みすぎてしまったから。呆れられてしまっただろうし、もうあんたとは来ませんとか言われても仕方がない。そう思ってしょんぼりと項垂れていると、ジュンくんが口を開いた。
「まぁ、なまえが優柔不断なのは今に始まったことじゃないですし」
「す、すみません……」
「別に怒ってないですけど。……ただ」
「ただ?」
「そんなに悩むくらいなら、一口あげましょうか」
どうせ、オレが頼んだパフェも美味そうって思って悩んでたんでしょ。そう言って笑う彼は、どうやらわたしがどれとどれで悩んでいたかなんてお見通しのようだ。
「いいの?」
「別にいいっすよ。つーか、今後悩んだ時はオレに言ってください」
「えっ、なんで……」
「ふたりで頼めば、その分わけられるでしょうが」
でも、それって迷惑じゃないか。言いかけた言葉は、ジュンくんが頼んだ苺パフェが運ばれてきたことにより遮られてしまった。わたしが先に食べてと言うより先に、アイス溶けるんで先食べますねと言った彼は、一口分をスプーンで掬うとそれをこちらに差し出した。
「えっと、あの、ジュンくん……?」
「早くしないと溶けますよぉ。ほら」
ずい、と差し出されたそれを、ぱくりと口を開けて受け入れる。バニラアイスの冷たさと、ストロベリーソースの甘酸っぱさが口いっぱいに広がった。
「おいしい……!」
「よかったっすねぇ」
それじゃあオレもとパフェを食べるジュンくんを見て、今のって間接キスなんじゃ……と顔に熱が集まるのがわかった。ぺろりと唇を舐める彼は、それに気付いているのか、いないのか。ばくばくと速まる鼓動を感じながらケーキを待つわたしにはもう、甘酸っぱい味はわかりそうにはなかった。