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素直になれる魔法



 好きだとか、愛してるだとか。彼女の紡ぎ出す言葉はいつだって真っ直ぐでくすぐったい。言葉だけじゃなく、ボクへ向けられる想いだって。

「好きだよ、夏目くん」
「……っ、いきなりだネ」

 だって伝えたくなったんだもん、と言ってなまえさんは笑う。春の陽だまりのようなその微笑みから、逃げるように視線を逸らした。どくんどくんと高鳴る鼓動の音が、耳にこびりついて離れない。

「もしかして照れてる?」
「……べつに。そうじゃない、って言ってモ、なまえさんは信じないでショ」
「そんなことないよ」
「嘘ダ」

 だって彼女はいつもそうだから。ストレートに想いを伝えては、ボクの反応を見てにこにこと笑っている。本人にその気はないのかもしれないけれど、からかわれているようで面白くない。もっと言うと、子供扱いをされているような気もして。

「ねェ、なまえさん」

 なに、と彼女が言うよりも早くその体を抱き寄せた。目が大きく見開かれて、頬が赤く染っていく。触れ合っている場所から、彼女の鼓動が速まっているのが感じられた。

「い、いきなり……!」
「先にしたのはなまえさんでしょウ?」

 仕返しをされても文句は言えなイ。ボクがそう言うと、なまえさんはそんなつもりじゃなかったのにと言葉をこぼした。

「こうされるのは嫌だっタ?」
「嫌じゃないよ。うれしい、です」

 ぎゅ、と控えめにボクの背中に回された細い腕。抱き締め返された拍子に、ふわりと鼻腔をくすぐる甘いシャンプーの香り。仕返しをしたはずなのに、ボクの鼓動が落ち着くことはなさそうだ。

「あの、夏目くん? ちょっと、くすぐったい……っ」

 彼女の首筋に顔を埋めて、すり、と猫のように擦り寄る。くすぐったいのだろう、なまえさんが身をよじるとまた甘い香りがした。甘い、けれどくどくはない彼女が愛用しているシャンプーの匂い。それを好きだと感じているのは、これが彼女の香りだと認識しているからだろうか。それとも、単にこの香りがボクの好みだからか。悔しいけれど、おそらくは前者だろう。

「ハァ…………なまえさんといると、何だか馬鹿らしくなってくル」
「え、何が!? というか私、馬鹿にされてる!?」
「馬鹿にしてるわけじゃないヨ」

 ただ真っ直ぐで素直な君を見ていると、自分が馬鹿らしくなってくるだけで。彼女の前では素直になってもいいかもしれない。否、素直になりたいと願っているのかも。そう思ってしまうくらいには、なまえさんの魔法にかかってしまっているようだ。魔法使いはボクの方なのに、ネ。

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